2016年8月より刊行したウェブマガジン「FT Focus」。演目と関連したアーティスト・インタビューや対談レポート、専門家からの寄稿などにより、F/Tだからこそ体験できる演劇・ダンス・美術・音楽の魅力を発信してきました。
ウェブ媒体やSNSが活性化しつつも、舞台芸術に関するより深い記事やレビューなどは、減少傾向にあり、観客にとっては、鑑賞公演選択のための情報や観劇体験を深めるための情報の入手が、困難な状況になってきたともいえます。「FT Focus」では、フェスティバル/トーキョー自身が、告知・宣伝とどまらない良質な情報の発信者となることで、現状への打開することを目指してきました。2016年には演目に合わせ、若手からベテランまで、幅広い執筆者やゲストが登場しました。今後も多彩な演目の集合体であるフェスティバルの良さを活かし、豊富なコンテンツを生み出すメディアとしての新たな可能性を追求していきます。
vol.1:市村作知雄☓中村政人対談
「境界を越えて、新しい人へ」
取材・執筆:文:藤原 ちからフェスティバル/トーキョー16のテーマは「境界を越えて、新しい人へ」。アーツ千代田3331を立ち上げ、アートと社会の交わる第一線で活躍する中村政人氏をゲストに迎え、フェスティバルディレクターの市村作知雄との対談を行なった。Read more…
vol.2:井手茂太☓ASA-CHANG対談
イデビアン・クルー 『シカク』
取材・執筆:石井 達朗日本のコンテンポラリーダンスを代表するカンパニーのひとつ、イデビアン・クルーがF/Tで放つ『シカク』。ASA-CHANG&巡礼を音楽に迎え、とてもユニークな舞台が生まれそうだ。井手茂太とASA-CHANGに話を聞いた。Read more…
vol.3:パク・グニョン×辺真一 対談
『哀れ、兵士』が描き出すもの
執筆: 西本 勲劇団名でもある「路地(コルモッキル)」から見える庶民の視点で、現代社会に潜む問題を大胆に描く劇作家/演出家パク・グニョン。フェスティバル/トーキョー16への参加作品『哀れ、兵士』は、時間と国境を越えた4つのエピソードを通して、現代国家システムへの疑問を投げかける意欲作である。
そんな同作がこの日本で上演される意義を伝えるべく、朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」の編集長で、日韓の架け橋として各方面で活躍するジャーナリスト辺 真一氏とパク氏の対談を企画。お互いに「ぜひお会いしたいと思った」という2人の対話は、最後まで深い共感に溢れたものになった。Read more…
vol.4:クリスチャン・ルパの『伐採』
寄稿・池田 信雄ポーランドの演出家クリスチャン・ルパは自ら翻案したトーマス・ベルンハルトの小説『伐採』を、国立ヴロツラフ劇場の舞台に掛け、2014年のポーランドの演劇賞を総なめにした。
ルパがベルンハルトの作品を手がけたのは、1992年に小説『石灰工場』を翻案し演出したのが最初で、次が1996年に戯曲『リッター・デーネ・フォス』、同じ1996年に戯曲『イマヌエル・カント』、そして5年を隔てて2001年にベルンハルト最後の長編小説『消去』の翻案を舞台に乗せている。Read more…
vol.5:「クラブ」空間に見るダンス/社会
セバスチャン・マティアス 『x / groove space』
取材・執筆:島貫 泰介ドイツ出身の振付家セバスチャン・マティアス。彼が展開してきた「groove space」シリーズは、クラブ空間におけるダンスの快楽、人と人のつながりなどを学問的見地から分析し、そこから生じる人々の振る舞いを生かしたダンス作品である。そのクリエーションにはしばしば現代美術のアーティストが参加し、視角的・造形的な空間への介入が行われる。
マティアスの最新作『x / groove space』は、3人のアーティストと協働し、東京とデュッセルドルフ(ドイツ)の2都市の諸相から着想したものだという。この新しいクリエーションが向かう先を考える。Read more…
vol.6:山岸清之進×藤井光対談
プロジェクトFUKUSHIMA!盆踊りから振り返る未来
取材・執筆:坂口 千秋2011年の震災と原発事故から5年がたった。震災と原発事故直後の混乱と不安のなかから「未来は私たちの手で」をスローガンに手探りで始まったプロジェクトFUKUSHIMA!の活動は、当事者の表現としてどんな可能性を今探っているのだろう。2014年から毎年F/Tのオープニングを飾った『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』が、3年目の今年で区切りを迎えるにあたり、映像作家・現代美術家の藤井光氏と、プロジェクトFUKUSHIMA!の代表、山岸清之進氏が、5年前の福島から遡って未来を検証する。Read more…
vol.7:鴻英良×ピョトル・ルツキ対談
『Woodcutters ― 伐採 ―』
取材・執筆:鈴木 理映子グロトフスキ、カントルに並ぶポーランド演劇の巨匠、クリスチャン・ルパ。緻密で繊細、鋭い批評精神に貫かれたその美学は、どのように生まれ、育まれたのか。ルパが拠点とするヴロツワフ・ポーランド劇場のドラマトゥルク、ピョトル・ルツキ氏に、演劇批評家でカントル『芸術家よ、くたばれ!』の翻訳も手がけた鴻英良がインタビュー。芸術家と国家システムの退廃をえぐる『Woodcutters—伐採—』に織り込まれた、“ルパの唯一の希望”とは—。Read more…
vol.8:リー・レンシン インタビュー
マレーシア特集『B.E.D.(Episode 5)』
取材・執筆:岩城 京子「天下り」ならぬ「回転ドア」と呼ばれる政府と大企業による癒着の連鎖により、マレーシアでは公共空間が次々に、娯楽施設やショッピング・モールなどの商業地に変貌しつつある。そんな社会情勢を背景に、「公共空間」に焦点を当てたダンス・パフォーマンスを作りつづけているのが若手振付家のリー・レンシン。今年のフェスティバル/トーキョーでは、プライベートな空間を象徴するマットレスを様々な場に配置する『B.E.D.』シリーズを改訂上演することになる。Read more…
vol.9:福田毅インタビュー
まちなかパフォーマンスシリーズ『ふくちゃんねる』
取材・執筆:落 雅季子中野成樹+フランケンズのメンバーである、俳優・福田毅のソロ企画。彼が新作の題材に選んだのは、なんと「通信販売」? 料理や地ビールのおいしいカフェ、Racines FARM to PARKを舞台に、誰も見たことのない架空の商品を売るという。明るくにぎやかなカフェで、のんびりコーヒーを飲みながら、虚実ないまぜのセールストークに身を委ねてみてはいかがだろうか?Read more…
vol.10:マレーシア特集 舞台『NADIRAH』とヤスミン・アフマド監督『ムアラフ 改心』について
寄稿・高塚利恵『NADIRAH』は、敬虔なムスリムの女子大生の愛と葛藤の物語。マレーシアの映画監督、故ヤスミン・アフマド監督『ムアラフ 改心』にインスパイアされた作品です。『ムアラフ 改心』もまた、敬虔なムスリムの姉妹が主人公の物語でした。姉のロハニを演じたマレーシアの女優、シャリファ・アマニが、今回の舞台でナディラをつとめます。Read more…
vol.11:森川弘和 インタビュー まちなかパフォーマンスシリーズ『うたの木』
取材・執筆:落 雅季子F/T14『動物紳士』で舞台美術家・杉山至と組み、知的な好奇心と身体表現へのストイックさを観客に印象づけた森川弘和。新作『うたの木』は、大阪で活躍する若手パフォーマー・村上渉、京都を拠点に各界で活動する音楽家・吉田省念とコラボレーションし、豊島区庁舎10階にある屋上庭園、豊島の森で上演される。宙に浮かぶ夢のような空間で彼は今、新しい野外パフォーマンスのかたちを生み出そうとしている。Read more…
vol.12:マレーシア特集『NADIRAH』日本公演に寄せて
寄稿・谷地田 未緒インスタント・カフェ・シアター(ICT)の作品が初めて日本で上演されることになった。芸術監督のジョー・クカサスは90年代に世田谷パブリックシアター、国際交流基金旧アジアセンターなどとの協同で、『あいだの島』(2001年)、『ホテルグランドアジア』(2005)年、『ブレイクィング』(2008年)、など、数年にわたる大がかりな国際共同制作に幾度も関わっており、日本とマレーシア、ひいては東南アジアの演劇交流を語る上では欠かせない作品を生み出している、演劇関係者や東南アジアのアートシーンに関わりの深い人にとっては馴染み深い俳優であり演出家だ。Read more…
Vol.13:松田正隆×桜井圭介 『福島を上演する』 マレビトの会の真っ当にして新しい「ドラマ演劇」のススメ
取材・執筆:鈴木 理映子戯曲を書き、稽古をし、上演する。ごく普通の演劇創造の時間、空間を、松田正隆とマレビトの会は、何食わぬ顔で、なぞりつつ、分解、再構築しようとしている。被曝都市・福島に取材した複数の戯曲の上演を通じ、福島と私たちの過去、現在に思いを馳せる新作『福島を上演する』。4日間4公演、それぞれ異なる上演が繰り広げ、積み上げる、新しい演劇の眺めとは──。ゼロ年代後期からマレビトの会の活動に着目、前作『長崎を上演する』を試演から追い続けてきた音楽家・批評家の桜井圭介と共に、その新しさと真っ当さを紐解こう。Read more…
vol.14:スザンネ・リンケ メールインタビュー
スザンネ・リンケ振付『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』
-表現主義舞踊家ドーレ・ホイヤーとダンスの記憶/未来
取材・執筆:新野 守広スザンネ・リンケ振付の3作品『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』がフェスティバル/トーキョー16で上演される。16年前、彼女はラインヒルト・ホフマンとともに来日し、『ユーバー・クロイツ』(2000年11月22日~25日、パークタワーホール)を踊った。不調和の要素が込められていたにもかかわらず、全体的に整然とした印象を残した舞台だった。Read more…
vol.15:『Buddha Boxing』アンビエント・サウンドの自動生成装置「ブッダマシーン」を生んだ音楽ユニット、<FM3>
寄稿:五十嵐 玄
FM3(ジャン・ジエン、ラオ・チャオ) メールインタビュー
取材・執筆:小山 ひとみ小春日和に誘われて、窓を開けて掃除をしていると、部屋の片隅で小さな青い紙の箱を見つけた。中華街あたりで売っている土産物が入っているような素気ない箱。なんと“Buddha Machine”ではないか。たしか初代機のはずだ。試しに電源を入れてみると、はじめのうちはプツプツと苦し気なノイズを発するだけだったが、やがて本体に仕込まれているスピーカーが懐かしいドローンの響きを奏で始めた。Read more…
vol.16:『アンジェリカ ある悲劇』アジアプレミア上映にあたり
寄稿:横堀 応彦素晴らしい舞台作品に出会うと、その作品がどのようなプロセスで作られたのか知りたくなる。稽古場では一体どのようなリハーサルが行われているのだろうか。有名な俳優が出演していると、その俳優に密着取材したドキュメンタリー番組で稽古場の様子が少しだけ映されることもあるが、演出家に密着したドキュメンタリーというのはそれほど多くない。2012年に公開された想田和弘監督の『演劇1 演劇2』はトータル5時間42分にわたって平田オリザと青年団の活動模様や現代日本の演劇を取り巻く環境を描いた数少ない長編ドキュメンタリー映画だと言えるだろう。
12月1日にセルバンテス文化センター東京で上映される『アンジェリカ ある悲劇』は、スペインのマドリードを拠点に活動する作家・演出家・俳優のアンジェリカ・リデルが2013年5月に『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』をウィーン芸術週間で初演するまでのプロセスを追ったドキュメンタリー映画である。Read more…
Vol.17:都市と舞台、その間にあるロビーの可能性
F/Tサポーターワークショップでうまれた「都市と舞台の小道具展」について
文・伊藤孝仁(tomito architecture)池袋、東京芸術劇場地下1階ロビー、通称ロアー広場。巨大な吹き抜けの底に位置する赤褐色の床に、臙脂色の豆型をしたスツールが行儀よく円状に並べられ、幾つかの車座をつくっている。劇の開場を待つ人が高揚感を胸に時間を潰していることもあれば、池袋を散策中の人が休憩で利用していたり、こっそり昼寝をしているタクシー運転手らしき人もいる。いろんな人が、適切な距離を保ちながら、それぞれの時間を過ごす広場である。Read more…