中野成樹+フランケンズのメンバーである、俳優・福田毅のソロ企画。彼が新作の題材に選んだのは、なんと「通信販売」? 料理や地ビールのおいしいカフェ、Racines FARM to PARKを舞台に、誰も見たことのない架空の商品を売るという。明るくにぎやかなカフェで、のんびりコーヒーを飲みながら、虚実ないまぜのセールストークに身を委ねてみてはいかがだろうか?
インタビュー・文:落 雅季子 撮影:細川浩伸
ー福田さんがソロ企画を始められた経緯を教えてください。
福田 2003年に中野成樹+フランケンズ(以下、ナカフラ)が結成されるより前から、中野(成樹)とは演劇をしていました。中野が大学の一年先輩だったんですよ。ソロを始めたきっかけは、2009年2月に上演した『44 マクベス』で、ナカフラの創作パワーがぐっと上がったのを感じたことです。実力も年齢も上の方を客演にお呼びしたし、音楽も大谷能生さんにお願いしたり、下の世代でも(斎藤)淳子とか竹田(英司)とか、後に劇団員になる新しいメンバーが入ってきた頃で。作品規模も劇場も大きくなってきて、そこで「ぼんやりしてたら僕は足ひっぱる存在になるぞ」と思って。それで、ソロ公演をやって力をつけようって決めました。
ー ソロ公演のシリーズでは今までどんな活動を?
福田 最初にやった作品は、まったく怖くない話を100個して、1個ずつ灯りを消すっていう(笑)百物語です。最期の1個が消えても何も出ないっていうオチでした。作品づくりは死ぬほど大変でしたね……。ソロだと書くのも演出するのも出るのも、美術も照明も音響も、自分で作って自分でジャッジしなきゃいけない。その決断の怖さがありました。それからも、古民家を観客に探検してもらう作品や、喫茶店でのオーダー制パフォーマンスなど、劇場以外の場所で身軽にやってきました。これからも、アイディアが出るかぎりソロは続けたいです。
ーソロプロジェクトを経験したことで、劇場での創作にフィードバックされたことはありますか?
福田 「空間全体」を使ってどう演じるかという意識はかなり強くなりましたね。だから、劇団に戻った時に、舞台上での俳優同士の立ち位置や関係性をあえて崩したり外していく技を使えるようになりました。かなり自由にやっています。中野に「やめて」と言われたら普通にやりますけど(笑)。
ー 劇場作品と、町ですれ違う作品のいちばんの違いは何でしょうか。
福田 劇場と屋外の圧倒的な違いは「情報量の差」ですね。培養された結晶化された作品を観るのが劇場。ライフルで一発狙う感じですかね。でも屋外に結晶を持って行っても、音はうるさいわ天気は変わるわで、劇場と同じことはできないから、屋外はピストル持って常にグルグル見回してるイメージですね。でもそうしてると下から足引っ張られたりするんですよね。油断できないです……。屋外で上演する時は、いくら自分ががんばっても、鳥がちょっと鳴いたらお客さんの注意はそっちに持っていかれる。大きな声を出すとか、力に力を重ねることをやっても自然には負けます。だからと言って、自然に手を伸ばしても握手を返してくれることはないですからね。逆に腕を切り落とされちゃう。だから、無理矢理共存しようとせず、場に寄り添っていくことを心掛けてます。
今回の『ふくちゃんねる』も、会場はカフェなんですけど、普通に営業もしています。だからカフェのざわめきが聞こえるんですけど、そこで僕が大きな声を出しても粋じゃない。ざわめきの中で何をやればおもしろいのか、考えています。客席も通常営業の状態のままだし、そこにわざわざステージつくって観てもらうよりは、だったら俺が動くよ! なんならテーブルの下もアクティング・エリアにするよ! くらいの勢いです(笑)。軽食・ドリンク付なんで、食べながら観ても、観る前に食べてもOKです。上演が終わったあともそのまましばらくは飲んだり食べたりしていただけますし。
ー 今作は「通信販売」がテーマなんですよね。
福田 夜中2時とかに家に帰って、寂しいからテレビつけるともう通販番組しかやってないんですよ。真剣に見てみても「この時間に誰が買うんだろう?」って思っちゃうし、本当におもしろくないんですよね……。美容器具、サプリメント、掃除用具、あとジュエリー系。本当にね、見ててもぜんぜん欲しくならない! タレントさんが出てきて「ほんとにこの汚れが落ちるんですか〜? わ〜!」みたいなやりとりもおもしろくない。でも最終的に「その商品はすごいらしい」っていうのはぼんやりわかるんです。
実は昔から中野と「おもしろくも感動もしないけど、ツバメの生態はよく分かる」みたいな演劇をやりたいって言い合ってたんです。お客さんに感想聞くと、全員が「ツバメの生態はよく分かった」って答えるような演劇があったら、逆に観たくないですか? 通販ってまさにそれだなって。おもしろくないし欲しくもならないけど、青汁のことはよく分かった! みたいな。ちなみに今は、創作しながら、実演販売と通信販売の違いについて悩んでます。
ー実演販売と通信販売は違う……?
福田 実演販売は、語り口や人柄が大きいですよね。でも僕は、ツバメのことを知ってほしいだけですから。まあ、ツバメを売るかは分かりませんけど(笑)、この秋いちばんの、何らかの商品情報をお伝えします! あっ、そういえば、何人かからタイトルを見て「ふくちゃん、寝るの?」って言われました。じゃあ寝るシーンも入れなきゃいけないかな。ニーズがあるってことだからな……。
ー 『ふくちゃんねる』=『ふくちゃん、寝る』?!(笑)。ところで、カフェではどんなものを売ってみせる予定なんでしょう?
福田 どこにも売ってないものを売ります! 今考えてるのは、このコーヒーカップを「UFOです」って言って売るようなことですね。UFO、限定100台! お電話もメールもすごい勢いです! Lサイズ売り切れ! 何だLもあったのかよ! みたいな(笑)。同じコーヒーカップはどこかに売ってるかもしれないけど、UFOと名付けられたコーヒーカップは買えないですよね。それと、今回は会場が横長で天井も高いので、巻物や掛け軸も使ってみようと思ってます。巻物だと、巻けばすぐ撤収できるしどこにでも持っていけますから。ソロの時は、基本、トランク一個でどこにでも行けるようにしているんですよ。小道具も照明も音響道具も詰めて。だから、呼んでもらえればどこでも行きます。音響も照明も電池式のものを使ったりするから、電源がない森の中とか砂漠とか、どこでもできますよ。忘年会でも新年会でもやります! ギャラ応相談で、獅子舞代わりにどうですか?(笑)
ー それは、ぜひ来ていただきたいです! 最後に、まちなかパフォーマンスのお客さんへ向けてメッセージを。
福田 普段演劇を観ない人や、子ども、お年寄りに向けて、よりやさしくやりたいとは思っていますが、ただわかりやすくすることはしないつもりです。謎の男がカフェで通信販売をやる……。それだけである種の難解さがありますから(笑)。「なぜその人がそれをやっているのか」が見えてくればいいと思います。僕が喋る商品情報はまったく人生の役に立たなくてもいいんですけど、「何だったんだろう、あのカフェでの出来事は……?」と、お客さんが死ぬまでに、どこかで一回は思い出してもらえる作品になればいいなと思っています。
撮影協力 marimo cafe
まちなかパフォーマンスシリーズ『ふくちゃんねる』
通信販売を演劇に? 「いま、ここ」だけの特別なご紹介
中野成樹+フランケンズでも活躍する俳優・福田毅による新作ソロ・パフォーマンス。さまざまな題材を独自のユーモアを交え作品化する彼が、今回目をつけたのは「通信販売」。テレビ通販の形式をなぞりつつ、そのとき、その場にある物、そこに集う人々をも活用した架空の商品紹介を展開する。目の前に示される具体的なモノに、偽物のセールストーク、本物の顧客? 現実とフィクションが交差し、心地のよい混乱を生み出す。 詳しくは→
10/27 (木) ─ 10/30 (日)
作・演出・出演: 福田 毅
会場:南池袋公園内 Racines FARM to PARK チケットは→
福田 毅(ふくだ たけし)
俳優 中野成樹+フランケンズ所属
2003年のカンパニー旗揚げ当初からほぼ全作品に出演。また、ソ・ヒョンソク「From the Sea」(F/T14)など、客演も多数。‘09年よりソロ・パフォーマンスを開始。虚実ないまぜの独特の語り口で観客を魅了する。‘15年にはTwitterに書き溜めた寓話を構成した新作「鷹」、カモ・カフェ(にしすがも創造舎)仕様にアレンジした「かも」を発表。
落 雅季子(おち まきこ)
1983年東京生まれ。「CoRich!舞台芸術まつり!」
森川弘和 (振付・出演)×村上 渉 (振付・出演)×吉田省念 (音楽・出演)
11/10 (木) ─ 11/13 (日)
会場:豊島区庁舎10階 豊島の森
都市の色合いを変える、ダンス×音楽×庭園
F/T14『動物紳士』で、ストイックな探究心と緻密な動き、あふれる遊び心を印象づけたダンサーの森川弘和。関西を拠点に活躍する若手ダンサー、村上渉と音楽家の吉田省念とのコラボレーションとなる本作は、豊島区庁舎の屋上庭園「豊島の森」の複数の場所を使って展開する。二人のダンサーの身体、そこにあるオブジェや動植物、そして吉田の奏でる音楽が一体となって、都市の一画にあらたな風景を立ち上げる。詳しくは→
ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』
脚本・振付・演出: 山本卓卓
12/1 (木) ─ 12/4 (日)
会場 あうるすぽっと ホワイエ
カラダとコトバ。映し、映されつつ立ち上げる「街」
気鋭の若手劇団・範宙遊泳を率いる劇作・演出家、山本卓卓が、「一人の人間」を掘り下げるソロ・プロジェクト、ドキュントメント。ダンサーの北尾亘との協同作業を経て2015年に初演し、今年2月のTPAMディレクション(横浜)でも好評を得た作品を上演する。北尾の強くしなやかな身体と、プロジェクターを通じて山本が投げかけるシンプルかつ鋭いテキストが乱反射しながら、ひとつの「街」を立ち上げる――。詳しくは→
チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』
作・演出: 岡田利規
12月2日 (金)~12月5日 (月)
会場 :
南池袋公園内
Racines FARM to PARK
呟かれる天地創造、コーヒーカップに見る世界
友人や家族との食事や会話を楽しむ人、本やスマートフォンを手に過ごす人……営業中のカフェで繰り広げられる、いつもの風景。その片隅で一人の女が何事か呟き続けている。コーヒーカップやグラスを「世界」に見立てつつ語られるのは、天地創造、歴史の正当性をめぐる物語。柔らかに磨かれた言葉と淡々とした語りは、都市の日常に小さな裂け目を生み、世界、歴史を引き寄せる。