F/T14『動物紳士』で舞台美術家・杉山至と組み、知的な好奇心と身体表現へのストイックさを観客に印象づけた森川弘和。新作『うたの木』は、大阪で活躍する若手パフォーマー・村上渉、京都を拠点に各界で活動する音楽家・吉田省念とコラボレーションし、豊島区庁舎10階にある屋上庭園、豊島の森で上演される。宙に浮かぶ夢のような空間で彼は今、新しい野外パフォーマンスのかたちを生み出そうとしている。
インタビュー・文:落 雅季子 撮影:細川浩伸
ー今作、屋外の庭園での上演となりますが、どのような気持ちで創作に取り組まれていますか?
森川 僕は何より「身体」を見つめることが好きなんですね。劇場空間はコンディションがいいから、意図したとおりに自分の身体を使いやすい。床も、リノリウムを敷いてフラットにできますから。屋外での上演は、コンディションの良さを求めてしまう自分とのせめぎ合いですね。劇場の中でつくる方が、身体の動きのクオリティを高められると思っているんですが、だからこそ今回の作品では、劇場の外での新しい発見につながればいいなと思います。
『うたの木』
森川弘和 (振付・出演)×村上 渉 (振付・出演)×吉田省念 (音楽・出演)
11/10 (木) ─ 11/13 (日)
会場 豊島区庁舎10階 豊島の森
ー意図したとおりに自分の体を動かすという意味では、F/T14で上演された『動物紳士』での、杉山至さんとのクリエイションはかなりストイックなものだったように思います。
森川 あれは、自分がいいと思う「点」をつないで「線」にしていくような作業でした。舞台美術に布を使ったりして、思い通りにいかない部分も楽しもうと思った作品だったんですけど、結果としてはきっちり踊るものになりましたね。最終的に不確定な要素を楽しもうとは思ったけど、練習の時は100%できるようにしていきましたし。今回は、雨が降ったら確実にはできないこともあるだろうから、あの時と同じ状態を目指していては、僕は死んでしまいます(笑)。でもね、自分でも不思議なんですけど『うたの木』をつくることになった時、当日雨が降ればいいなと思ったんですよ。それこそ、外でしか起こり得ないことですから。その時にどう対応できるのか、懐の深さを持って取り組みたい。雨が降ってる中で、一生懸命演奏してる人がいたり、ポタポタしずくを垂らしながら立ってる人がいるって素敵な感じしません? そういうことをやってみたいなあ。
ー目の前に青空や豊島区の風景がひろがっているのは、観客にとっても劇場での体験とはまったく違ったものになりますね。今回の屋上庭園は、秘密のお散歩の感じがあって、皆さんそれぞれの思い出を持ち帰ることになるでしょうね。
森川 僕自身も、そういう場所でパフォーマンスを観るのは好きです。風で揺れる木の葉とか水の音、夕日が落ちて行く瞬間なんか、無条件にきれいですよね。そういうものを目撃できる環境はいいなと思います。僕らが一生懸命やっていることに飽きた人は(笑)、鳥が飛んでるのを観て楽しんでくれたら素敵だなあ。
僕は作品つくる時はいつも、ダンスを観たことない人に楽しんでもらうにはどうしたらいいかなあって考えてるんです。いろんな人に観てもらいたいし、つまんないと思われたらせっかく来てもらったのにもったいないと思うんですよね。ダンスでも演劇でも、「身体」って素敵なものだから、それを美味しく観てもらいたい。そういう精神はいつも持っていますね。もちろん、見せたいは見せたいですよ、身体をね。それがいちばんの気持ちです。でもそこに行き着くまでにはやり方があるだろうと思ってます。
ー ひとつひとつご自身で納得しながら、お客さんに見せるステップを大事にされているんですね。
森川 ……正直に言うと、昔はお客さんのことより、自分の探究心を満たすことを目指してやってました。で、そこからこぼれてくるものを見てもらったらいいんじゃないかっていう気持ちで。今思うと、閉じてましたね。ストイックすぎるところが僕にはあって、完璧に仕上げたいと思うんだけどうまくいかなくて、でもだんだん、間違ったりうまくいかないことを僕も楽しんだらお客さんも楽しいんじゃないかって思えてきて……。思ったとおりに、きれいにやるだけが全てじゃないなと。僕にも余裕がないと、自分自身のパフォーマンスを楽しめないじゃないですか。完璧にできない時に「さて、ここからどうしようかな?」って、ライブで自分の気持ちを表に出した方が自分も楽しめると思ったし、楽しんでる人を観るのは、お客さんも楽しいと思うようになったんです。その中で、最大限稽古したり、自分の頭でシミュレーションして完璧にすることは大切にしていますけど。
ー 今回は村上渉さんと吉田省念さんの3人でのクリエイションですね。村上さんは、森川さんとはまた異なる身体性の持ち主のダンサーですし、吉田さんは音楽家ということで、3人の目指す地平はどんな場所になるのでしょう。
森川 今作の『うたの木』というタイトルは、僕が付けました。あとはゼロから、みんなの意見を言い合ってつくろうとしているところなんですけど、3人の足並みを揃えるのは本当にむつかしいですね。今までの稽古では、相手の言ってることを汲み取ろうとしたり、相手の言ったことの中から自分ができることは何か考える時間が多かったかな……。いつまでもお互い探り合ってられないですからね。自分のやりたいことや、自分の居心地がいい場所を3人それぞれが見つけるために、もうちょっと激しいやり取りも出てくるかもしれない。その中から新しいことが見つかればいいなと思ってます。
<映像>『うたの木』予告編 |
ーメンバーの皆さん、ルーツを関西にお持ちですよね。
森川 僕も今は東京を拠点に活動していますけど、出身は滋賀なんです。僕が二人を誘ったのは、人柄や仕事を好きだったからだけど「関西」っていう要素も大きかったんですよ。「関西から来ましたでー!」みたいな感じで行こかな……というのは、僕の気持ち的にはやっぱりあるんですね(笑)。省念さんは全国的に活動されて、音楽シーンでも知られているけど、渉くんについては「大阪にこんなおもろい人がいますよ!」っていうのをぜひ東京の人に観てもらいたい気持ちがあります。渉くんは、禅に興味を持っていたり、すごく面白い人なんですよ。
ーおふたりのダンスと吉田さんの音楽が、どう響き合うのか楽しみです。
森川 ダンスのために音楽がなくちゃいけないとは思っていないですね。省念さんファンの方は、ぜひ音楽を聴きに来てください。今、新曲をつくってもらっていますし、繰り返される小さなリフとか、即興とか、いろんな音楽が聴けます。ダンサーにとっても音楽家にとっても、ダンスを先につくって音楽をつけるやり方はなんとなく想像がつきます。でも、それって稽古場が分かれていてもできるでしょう。だから今は、同じ稽古場に3人いる時にしかできないことを考えてます。3人で過ごした時間を密に積み上げて、できあがるものを大事にしたいですね。
撮影協力 marimo cafe
まちなかパフォーマンスシリーズ『うたの木』
森川弘和 (振付・出演)×村上 渉 (振付・出演)×吉田省念 (音楽・出演)
都市の色合いを変える、ダンス×音楽×庭園
F/T14『動物紳士』で、ストイックな探究心と緻密な動き、あふれる遊び心を印象づけたダンサーの森川弘和。関西を拠点に活躍する若手ダンサー、村上渉と音楽家の吉田省念とのコラボレーションとなる本作は、豊島区庁舎の屋上庭園「豊島の森」の複数の場所を使って展開する。二人のダンサーの身体、そこにあるオブジェや動植物、そして吉田の奏でる音楽が一体となって、都市の一画にあらたな風景を立ち上げる。 詳しくは→
11/10 (木) ─ 11/13 (日)
会場 豊島区庁舎10階 豊島の森 チケットは→
森川弘和(もりかわ ひろかず)
ダンサー
22歳で渡仏しマイムとサーカスを学ぶ。帰国後、京都を拠点に活動するMonochrome Circusのダンサーとして5年間活躍。2007年よりフリーランスとなる。自身の作品を発表するほか、さまざまなプロジェクトに参加。F/T14では美術家・杉山至との共作『動物紳士』を上演。瞬発力と抜群のボディバランスを生かした動き、ストイックな挑戦心とユーモアを併せ持ったパフォーマンスは高い評価を得ている。
落 雅季子(おち まきこ)
1983年東京生まれ。「CoRich!舞台芸術まつり!」
まちなかパフォーマンスシリーズ
F/Tによるあらたな試みが2016年の池袋東口から始まる―ジャンルの異なる演目を劇場外の空間で上演
ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』
日本国内にとどまらず、東南アジアでの活動もめざましい範宙遊泳・山本卓卓が、2015年にソロ・プロジェクトとして発表した作品を、あうるすぽっとのホワイエで上演。シビアに世界を見つめ、若者から老人、幼児からその親、動物にいたるまで、あらゆる生命の「リアル」を切り取る山本に、タフなパフォーマンスで応えるのはダンサー・北尾亘だ。たったひとり、自分の身体のみというミニマムな装備で、人格も時間も超えた世界をマキシマムに具現化する北尾は、プロジェクターで投影される山本のテキストとともに軽やかに踊り、観る者の価値観を強く揺さぶる。
日程:12/1 (木) ─ 12/4 (日)
会場: あうるすぽっと ホワイエ 詳細・チケット購入は→
チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』
混雑したカフェに、一人の女が座っている。彼女は自らを、天地創造を知る民族の生き残りだと言い、ぶつぶつとひとりごとを繰りひろげる。彼女の妄想は誰にも止められないし、観客が「彼女にしてあげられることは何もない」。コーヒーにミルクを垂らし、砂糖をぶち込み、かき混ぜる女。散らかっていくテーブルに満ちる狂気を、観客はただ見守ることしかできない。
おおいたトイレンナーレ2015で初演され、TPAM2016でも観客たちの背筋を静かに凍らせた本作が、今回はじめて東京都で上演される。南池袋のカフェに現れる「彼女」は、都市に生きる人々の孤独と無力感を、きっと浮き彫りにするだろう。
日程:12月2日 (金)~12月5日 (月)
会場 :南池袋公園内 Racines FARM to PARK 詳細はこちら→
関連企画
「F/T×アップリンク クロスオーバー企画」
F/T リミックス「LIVE Performance:伊東篤宏 × 北尾亘 × 稲継美保」
- 日時 11月7日(月)19:30開場 / 20:00開演(21:00頃終演予定)
- 料金 ¥2,000(1ドリンク付き)
- 会場 UPLINK FACTORY(1F)
- 詳細・ご予約はこちら
F/Tとアップリンクがお送りするクロスオーバー企画
伊東篤宏、北尾亘、稲継美保。F/T16で上演されるそれぞれ異なる作品に出演するアーティスト3名による一夜限りのスペシャルセッション。
セバスティアン・マティアス『x / groove space』でコラボレーションアーティストとしてサウンドインスタレーションを務める美術家の伊東篤宏。ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』に出演する若手注目ダンサーの北尾亘。そしてチェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』に出演する稲継美保。F/T16で上演されるそれぞれ異なる作品に参加する3人のアーティストが、作品の垣根を越えて一夜限りのライブ・パフォーマンスを行う。