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2018/11/09

ドキュントメント『Changes』レビュー (鈴木理映子)

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文/鈴木理映子

 『Changes』で変わるものは−−

 俳優・田中美希恵が痩せていく過程を、かつて所属した劇団の主宰がカメラを通して追うドキュメント。率直に言って、この企画について初めて聞いた時には、どうも腑に落ちない、どころか、危なっかしい企画だと思った。身体的特徴やファッションを介して、「身体」と「まなざし」の関係を紐解くのは、社会的関心としても演劇的関心としても、わかりやすい。だが「痩せる企画」を立てたその時点で、その首謀者たる山本卓卓は、この題材にまつわる問題(たとえば差別や身体の消費のような)を自ら再生産することになるからだ。
 試写会で本編が始まっても、しばらくはその疑問を拭い去ることはできなかった。田中は「痩せる」ことには賛同しているし、直接、あるいはカメラ越しに、このことについて問いかける山本にも、ある程度率直に答えているように見える。だが決して自ら「痩せたい」と語るわけでもないし、太っていることで受けたとされるいわれのない仕打ちを再現ドラマに仕立てたシーンでも、特にそれを通じて言いたいことがあるふうでもない。今回のF/Tでの上映を前にしたインタビューで、山本はトップダウンではない、民主的なものづくりへの思いを語っているのだが、これでは演出者と俳優の権力構造は変わらない、どころかむしろ強化されているのではないか−−?
 だが、終盤のワークショップのシーンをきっかけに、そうした疑問や違和感は解け始めた。「痩せる企画」を始めとする、山本のさまざまな作為、振る舞いの先には、やはり前述した、身体と社会の問題とは別の焦点が存在する。足掛け8年にわたって俳優と演出家として向き合ってきた田中美希恵と山本卓卓が、その関係をあらためて見直し、構築しなおすこと。そのための場作りとして、山本は自らもカメラの前に現れ、さまざまな発言をし、時には演技さえもしてみせるのだ。
 この映画は長期プロジェクトで、今も撮影、編集は続けられているのだという。山本が仕掛けた実験場に、これからどう田中が乗ってくるのか、あるいは乗らないのか。山本自身は、今後、どのようにこの映画の中に存在していくのか。今、ここで公開されるのは、そのプロセスの始まりでしかない。それでも十分に、スリリングではあるのだが。

 

鈴木理映子

編集者、ライター。演劇情報誌「シアターガイド」編集長を経て、2009年よりフリー。演劇専門誌、広報誌、公演プログラムでの取材・執筆のほか、『F/Tドキュメント』(F/T09—13)、『ポストドラマ時代の創造力』(白水社)、『<現代演劇>のレッスン』(フィルムアート社)などの編集を担当。青山学院大学「ACL現代演劇批評アーカイブ」(acl-ctca.net)の開設にも携わる。

ドキュントメント『Changes(チェンジズ)』

監督・撮影・編集 山本卓卓
日程 11月13日(火)19:30・11月14日(水)13:00/17:00
会場 あうるすぽっと
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