2014年11月11日
アーティストによる選書や上演作品に関連した書籍をご紹介するF/Tbooks。
フェスティバル期間中、リブロ池袋本店 西武池袋本店書籍館2F 芸術書コーナーで、「F/T14上演作品やこれまでのクリエーションに影響を与えた本」をテーマにしたアーティスト選書をご紹介しています。ぜひリブロ池袋本店で手にとってご覧ください!
※タイトルによっては絶版などで取扱いがない場合がございます。取扱い状況は店頭やWEBでご確認ください。
また、F/TBooksのご購入に限らず、リブロ池袋本店のレシートを東京芸術劇場1FのF/T14インフォメーションブースにお持ちいただくと、メインビジュアルでラッピングしたオリジナルカイロをプレゼントいたします。ぜひこちらもご利用ください!
『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』大友良英による選書
『羅生門|藪の中』坂田ゆかり(演出)、長島 確(ドラマトゥルク)、目/南川憲二、荒神明香(美術)による選書
『春の祭典』白神ももこ(演出・振付)、毛利悠子(美術)、宮内康乃(音楽)による選書
『動物紳士』森川弘和(振付・出演)、杉山 至(美術・衣裳デザイン)による選書
インプロヴィゼーション デレク・ベイリー著 ISBN:978-4875022220 工作舎 / 2,482円 |
即興とは何かを考えるのに欠かせぬ本。80年代初頭に出て以来、ことあるごとに読み返しています。わたしの音楽の源にあるのは、間違いなくベイリーがやってきた即興演奏と、その背景にある発想です。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
ことばと国家 田中克彦著 ISBN:978-4004201755 岩波書店 / 778円 |
言語学の古い本ですが、わたしにとっては最良の音楽の書。自分の生きる指針を示してくれるバイブルと言っても過言ではありません。音楽に対する基礎的な考え方はここから学んでます。少しでも多くの人に読んでほしい本。 ご購入はこちらから→ |
三文役者のあなあきい伝 part 1 三文役者のあなあきい伝 part 2 殿山泰司著 part1 ISBN:978-4480029379 part2 ISBN:978-4480029386 筑摩書房 / 各713円 |
昭和の名優、名脇役にして最高のJAZZ紹介者、名エッセイストでもあった殿山泰司さんの自伝。あまりの面白さにあっというまに読めてしまうけど、その背景にあるものにオレは本当に影響受けました。最高の思想書です。 part1 ご購入はこちらから→ part2 ご購入はこちらから→ |
---|
日本フリージャズ史 副島輝人著 ISBN:978-4791759569 青土社 / 3024円 |
7月に83歳でこの世を去った前衛ジャズ評論家にしてオーガナイザー副島輝人さん渾身の書。常に現場とともにいた彼でなければ、この本は書けなかったと思います。ここに書かれた現場から、わたしは本当に多くのものを学びました。この現場のはしくれにいられる事、本当に光栄に思ってます。 ご購入はこちらから→ |
---|
詩集 壁に描く マフムード・ダルウィーシュ著(訳:四方田犬彦) ISBN:978-4879956835 書肆山田 / 2700円 |
パレスチナの国民的詩人マフムード・ダルウィーシュによる、現在のところ唯一の日本語版アンソロジーです。美しいアラブの情景と愛の詩の端々に占領の現実が滲み、彼の詩的言語の中には死者が多く登場します。歴史の足跡の上に今を生きるアイデンティティーが力強く響くダルウィーシュの詩は、パレスチナ人に熱烈に愛されるばかりでなく、海を越え、日本の読者の胸にも不思議な郷愁とともに迫ってきます。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
記憶/物語 岡 真理著 ISBN:978-4000264273 岩波書店 / 1728円 |
パレスチナと日本の共同制作という課題を前に、岡氏の著作には強く影響を受けました。本書は、<出来事>を外部へ分有することの不可能性を、アラブ文学の専門家である著者自身の体験を交えながら様々な角度から見つめ、記憶と物語の断絶を思考し続けています。冷徹なまでに明らかな不可能性の自覚は、演劇という物語再構築の営みに新しい挑戦を呼びかけているように感じます。パレスチナ問題の入門者にもおすすめの一冊。 ご購入はこちらから→ |
ムーたち 1/ムーたち 2 榎本俊二作 1: ISBN:978-4063725704 講談社 / 637円 2: ISBN:978-4063726398 講談社 / 648円 |
仕事に影響を与えた本といえば『ムーたち』です。ある章に出てくる「セカンド自分」(意識の視点を増やすはなれワザ!)は、社会人3年目のとき舞台監督の上司にすすめられ、演出でも実践しています。謎の父ミノルと、何事も素直に吸収する息子ムー夫の親子の絆を中心に、個性豊かな友人たちや、世界の法則を追求し続ける隣人など、ハードな人間関係に巻き起こる数々の遊びの中に、新しいものを産み出す創造の極意が詰まった私の指南書です。 ムーたち 1 ご購入はこちらから→ ムーたち 2 ご購入はこちらから→ |
---|
決定版 新パスタ宝典 ヴィンチェンツォ・ブオナッシージ著(訳:西村暢夫) ISBN:978-4835450025 復刊ドットコム / 8640円 |
イタリアのパスタ王が集めた1300種以上のレシピを収める大著が昨年奇跡の復刊。バリエーションの多さは結果でしかなく、この本から学べるのは基本と応用の「考え方」。大げさにいえばパスタ料理を貫く哲学。ゆでたパスタをニンニクとオリーブオイルであえるだけのレシピから始まって、基本とは何か、応用とはどうすることか、ああ、勉強になります。(写真ゼロなのもすごい) ご購入はこちらから→ |
---|---|
住まいの手帖 植田実著 ISBN:978-4622076018 みすず書房 / 2808円 |
家や建物、「住むことの業」のようなものをめぐるエッセイ集。作家ではない編集者ならではの、「見る」ことや「知る」ことの温度、対象との距離感と興味の広がり。人にも建物にも向く関心のバランス。フェチとドライさ加減。対になる児童文学論『真夜中の庭』も含め、著者の本はどれも捨てがたいけど、これはお守りのような本。ほんと尊敬してます。) ご購入はこちらから→ |
沈黙を破る 土井敏邦著 ISBN:978-4000238496 岩波書店 / 2484円 |
パレスチナを追い続けている日本人ジャーナリストが、元イスラエル兵の始めた運動を取材した本。兵役を終えた若者たちが、このままでは自分の内面が/自国が内側から壊れていくという危機感から告白を始める。同名の映像版もすばらしいけど、本書はさらにひとまわり大きなフレームで、過去の戦争における日本の加害・被害の問題も扱っている。とても考えさせられます。 ご購入はこちらから→ |
イカの哲学 中沢新一、波多野一郎 ISBN:978-4087204308 集英社 / 734円 |
特攻隊の生き残りで哲学者の波多野一郎が1965年に出版した『イカの哲学』。学生時代からこの作品に注目していた中沢新一が、イカが人間とコミュニケーションとれたらという発想から本質的な意味での平和論を説く。~この本を読んだとき、平和論を超えた、この地球上に生息する生命体の一部として生きる「私たち」について考えさせられました。「イカの眼は地球の眼なのではないか」という不可解な問いに、すべてが詰まっていると感じました。 ご購入はこちらから→ |
---|
Can you Dream? -夢を生きる- 植田景子著 ISBN:978-4797349832 SBクリエイティブ / 1944円 |
宝塚歌劇団初の女性演出家の方のエッセイ。宝塚の演出家を目指して入団し、演出助手の時代から自身の作品を作るにいたるなど、アイデア段階から脚本など普段知ることのできない創作過程などが書かれているので、面白かったです。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
日本は資源大国になれる!! 小須田道彦著 ISBN:978-4862236739 東京図書出版 / 1234円 |
毛利悠子さんとのミーティングで、ゴミの話や都市資源について話していた時にすすめていただいた本。こういう本はなかなか難しくて読めない気がしていましたが、かなり分かりやすかったです。完全に絶望的に思える今の状況を少し前向きに思えるのと、一番今回の作品のテーマに近いです。 ご購入はこちらから→ |
サーカスに逢いたい アートになったフランスサーカス 田中未知子著 ISBN:978-4773809039 現代企画室 / 2592円 |
とにかく綺麗だし楽しい本で、写真だけでもとっても照明や絵としてもかなり影響されます。こんなに遊んで良いんだ?って思えます。DVDもついています。 ご購入はこちらから→ |
---|
ひらがな日本美術史 橋本治著 新潮社 |
昨年の春頃、なんだかやることもやりたいこともない時期が1か月ありました。しかしなにもやらずに1日が終わることは避けたくて、おもわず自分に課したルールが「1日1国宝」。1日1つ、国宝に触れる、触れようとするという課題なのですが、これがとてもよかった。日本の宝の「基本のキ」もわかるし、自分がどんなものに価値を感じるかもわかってきました。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
ムナーリの機械 ブルーノ・ムナーリ著(訳:中山エツコ) ISBN:978-4309270616 河出書房新社 / 3132円 |
現実世界とまったく関係ない機械ってなんだろう、世の中にありえないシステムってなんだろうって考えたとき、ここに答えがありました。 ご購入はこちらから→ |
建築を考える ペーター・ツムトア著(訳:鈴木仁子) ISBN:978-4622076551 みすず書房 / 3456円 |
ペーターさんが、ある日ラジオからながれてくるアメリカ人詩人、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズの詩集を聞きながら「美しさの硬い芯」について書いていた。日常や趣味、そして仕事からつむぎだす哲学。自分の制作について語ることが将来あるとしたら、こんな誠実な言葉をつかいたいとあこがれています。 ご購入はこちらから→ |
今日の芸術 岡本太郎著 ISBN:978-4334727895 光文社 / 535円 |
学生時代に読んで強く影響を受けた本であるが、「芸術とは」という根源的な命題に対し、非常にクリアに分かりやすい言葉で書かれていたのが印象的だった。今改めて私自身も読み返してみたい。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
人はなぜ歌をうたうか -小泉文夫著作選集1- ISBN:978-4054020733 学研マーケティング / 2160円 |
大学院時代「音楽とはいったい何か?」「人はなぜ音楽という営みをするのか?」という根源的な問いにぶち当たった際に出会った本。世界中のさまざまな表現や、その起源の意味、人間の文化や生活と音楽の関わりなど多くを学び、自身の表現に大きな影響を受けた一冊。 ご購入はこちらから→ |
仏像は語る-なんのためにつくられたのか- 宮元 健次 ISBN:978-4334033248 光文社 / 778円 |
中学生の頃から仏像の魅力に目覚め、以来仏像を見るのが至福の時となったが、私の大好きな仏像たちの作られた時代背景やその意図などが書かれた一冊。その姿を見て楽しむだけでなく、作られた意味や込められた祈りの部分を知り、見え方がさらに深まった。 ご購入はこちらから→ |
ぼくのともだち エマニュエル・ボーヴ著(訳:渋谷豊) ISBN:978-4560071847 白水社 / 1080円 |
まぁはっきりいうと解決しないのです。主人公のダメっぷりが自分に、似てるというか、こんなダメな奴が世界には沢山いると思えるといとおしくて、切なくて、何故か読み終わった後にしょうがない生きていこうと思うのです。友達が本当の友達がほしいという主人公の思いが何故か滑稽で、笑えて、マジ、自分って、て泣けてくる。世の中からいらないと自分は思われてるはずだと思っているすべての弱い人々に読んでもらいたいです。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
肉体の悪魔 レイモン・ラディゲ著(訳:新庄嘉章) ISBN:978-4102094020 新潮社 / 464円 |
主人公の名前は最後までわからないただの『僕』なのです。これを高校生の時に読みました。十代後半は皆そうかもしれませんがめちゃくちゃして愛を求めて人を傷つけるものなのかもしれません。国語の先生をしていた祖母が高校生の時に誕生日にくれた本です。人は自分の恋愛をあたかも特別のことのように思いこみ自分たちだけが経験している苦しみや歓びなのだと勘違いしていく。という言葉が胸にしみて泣けてくる。わずか20歳で亡くなった作者ですが、これはやはりフランス文学を代表する小説といっていいように思うのです。愛ってね…。 ご購入はこちらから→ |
内なるネコ ウィリアム・バロウズ著(訳:山形浩生) ISBN:978-4309202341 河出書房新社 / 1572円 |
わたしたちは内なるネコ、一人では歩けないネコ、居場所はひとつしかない。この本を読んだはもうずいぶんも前のことですが私のバイブルです。作家の最後の日記といわれていて、もう死んでしまった妻や子供や友人同性の愛人たち、死別した何人もの人が次々ネコになってあらわれ、話す。ビートジェネレーションに憧れた学制時代はスタジオボイスという雑誌とジャックケルアックの路上を読み、ウィリアムバロウのカットアップテクニックを真似して何度も文章をつなぎあわせた。人は命が終わろうとするときに内なるネコにむかって語りかける。すべての人がそうであろうと思えると、切なく悲しいのですが孤独あるということが…まだ答えはわたしごとにだせないです。 |
ガンジョリ いがらしみきおモダンホラー傑作選 いがらしみきお著 ISBN:978-4091816658 小学館 / 977円 |
神は、善い行いをしたから救ってくれるというものではなく、もっと底抜けに、秩序も無秩序もひっくるめて抱いている容赦ない存在なのだと思う。 ご購入はこちらから→ |
---|
テリトリー論2/青梅/ 河原荒草 新装版/ コヨーテ・ソング 伊藤比呂美著 テリトリー論2 ISBN:978-4783702139 / 思潮社 / 1296円 青梅 ISBN:978-4087493689 / 集英社 / 305円 河原荒草 新装版 ISBN:978-4783732662 / 思潮社 / 2160円 コヨーテ・ソング ISBN:978-4884182793 / スイッチ・パブリッシング / 1728円 |
セックスや排泄や毛や液体の話を、エキセントリックへ行かず、ごろりと物理として書く言葉にしびれ、飲みくだすみたいに読んで私の血肉になった。 テリトリー論2 ご購入はこちらから→ 青梅 ご購入はこちらから→ 河原荒草 新装版 ご購入はこちらから→ コヨーテ・ソング ご購入はこちらから→ |
---|
小説修業 小島信夫、保坂和志著 ISBN:978-4122050266 中央公論新社 / 782円 |
本当は、もっと直接的に影響を受けたのは、保坂和志が小島信夫について書いた「遠い触覚」というエッセイなのだけど、本になっていないので。話をするというのは、ゴールに至ることではなくて、全ての路を味わうことだ。 ご購入はこちらから→ |
---|
原初生命体としての人間 野口三千三著 ISBN:978-4006030803 岩波書店 / 1123円 |
すべてのひとが持っているからだ、一番身近な自然の営みであるからだについて野口氏の独創的な言葉で描かれています。ページを開くたび心にすっと入り込み、からだやこころ、さらには社会や環境との繋がりについても気付かされます。身体表現をされている方のみならず、すべてのひとにおすすめの一冊です。 |
---|---|
体を守る栄養百点満点の健康法 山田豊文著 ISBN:978-4479781868 大和書房 / 1512円 |
ご購入はこちらから→ |
空海の風景 司馬遼太郎著 空海の風景(上) ISBN:978-4122020764 中央公論新社 / 741円 空海の風景(下) ISBN:978-4122020771 中央公論新社 / 802円 |
空海に興味を持ち、様々な空海論を読み漁った事がある。特に宗教家としてよりも、人間空海に光をあて、空海の言葉を思想、芸術、風景、身体から紐解く空海論に興味をもった。ある意味それは斜め読みだし、空海の本質とはズレている見方なのかもしれないが、この一冊が空海の思想をより自由に解釈してもよいのでは?というイメージを与えてくれた。冒頭、司馬遼太郎は空海の人生の中で謎とされている20代の動向を探るべく、空海が修行中に金星が口の中に入ってきたという伝説がある高知・室戸御崎の御厨人(みくろど)窟を目指す記述から始める。まるでインディ・ジョーンズの冒険潭のように。司馬遼太郎は空海が体験したであろう道や環境や風土を、現象として身をもって探るべく感覚を研ぎすましてその足跡を辿っていく。 膨大な空海の思想を司馬遼太郎という感性がその全身の感覚を研ぎすまして捕まえようとする非常にスリリングな一冊。空海の、ものやことの本質を完結な言葉で定義し、それを膨大な思想としてカタチづくる見事さ、そしてその思想が必ず、身体や声や音という現象、実存をともなって語られるところに、パフォーミングアートに関わるものとしてとても興味を惹かれる。 空海の風景(上) ご購入はこちらから→ 空海の風景(下) ご購入はこちらから→ |
---|---|
悲しき熱帯 レヴィ・ストロース著 悲しき熱帯 1 ISBN:978-4121600042 中央公論新社 / 1566円 悲しき熱帯 2 ISBN:978-4121600073 中央公論新社 / 1674円 |
言わずと知れた20世紀の知の巨人、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロース。しかし、彼が学生の頃に舞台美術を手掛けていた事は余り知られていない。文化人類学と舞台美術。一件全く関わりのないジャンルのようだが、舞台美術の視点から彼の著作を読み返してみると違った側面が見えてくる。本来の学問的見地からするとあまり重要でないような本書の冒頭の部分。南米へ向かう船の中、時間を持て余したレヴィ・ ストロースは船上から見える海原に夕陽が沈みゆく情景を、まるで舞台美術家か照明家のような目で、刻一刻と移りゆく光と大気の関係を詩的にかつ科学的に言葉でスケッチしていく。実に10ページ以上を割いて。印象派の画家が戸外の光の現象を色と質感で繊細にキャンバズに表現したように。かつ、科学者がその自然現象を数学的に物理的にひも解くようにである。「野生の思考」の中で、神話的思考と科学的思考の違いをブリコラージュという身体的知覚の在り方から完結にかつ明確に紐解いてみせるその思想の背景に、単に学問としての知のあり方を超え人類がその原初から保持している芸術的思考への畏敬の念と、それ自体を保持してきたことの謎への飽くなき探求心を感じる。何かに迷うと、羅針盤のように手に取ってみたくなる一冊。 悲しき熱帯 1 ご購入はこちらから→ 悲しき熱帯 2 ご購入はこちらから→ |
日和下駄(一名東京散策記) 永井荷風著 ISBN:978-4061976856 講談社 / 1058円 |
元祖ぶらタモリ。中学か高校の時に読んでいるはずなのに、その頃は私の方が身体の感覚から風景を描写する荷風の魅力を理解できなかった。舞台美術の視点で、建物や街やランドスケープを散策しながらスケッチするというワークショップを行うようになって、より永井荷風に惹かれるようになった。江戸の風情を大正、昭和の風景の底に嗅ぎとり丹念に記述していく。細密かつ大胆に。印象派のような言葉による美しい点描画的スケッチ。永井荷風をもう一度読んでみようと思ったのは、青空文庫で『すみだ川』という作品を読んでからだ。自分には、もうだいぶ遠い時代のはずなのに、読んでいると気配やら喧噪やらを感じ身体の知覚を揺さぶられる。父や母や祖母や曾祖父が暮らしていた時代の息吹。流れる川のように連綿とDNAに潜む風土を直観する太く古い感覚が揺さぶられるからだろうか。荷風の生きていた時代。加速度を伴って遠くなっていく江戸の生の感覚と、生まれたときから矛盾と混沌をかかえた東京という都市を歩き回り言語化することで、その距離を埋め繋ごうとする荷風の哀愁ありかつモダンな感性が現代の我々の東京をも射程に引き込む。歩きながら考える。街歩きが好きな人には、必携の書。 ご購入はこちらから→ |
李陵 中島敦著 ISBN:978-4101077017 新潮社 / 432円 |
漢の武帝の時代。騎馬民族である匈奴の捕虜となって降伏した漢の武将・李陵と、彼をかばって宮刑に処せられた司馬遷、そして李陵と同じく匈奴の捕虜となりながら降らなかった蘇武。3人の男の生き様が淡々と語られる。すべての人間の行動にはやむにやまれぬ事情があり、これをきちんと書くのが人間を描くということだ。この本を繰り返し読むたび、そう教えられる。 ご購入はこちらから→ |
---|---|
郵便配達夫 シュヴァルの理想宮 岡谷公二著 ISBN:978-4309474182 河出書房新社 / 821円 |
南仏の小さな町オートリーヴにある奇怪な建築物「シュヴァルの理想宮」。郵便配達夫が33年という歳月をかけ、たった一人で築き上げた石とセメントの宮殿である。奇妙な造形に圧倒される。そして宮殿のあちこちに刻印された制作者自身によるアフォリズムの数々に心を打たれる。自分は何を残せるだろうか、と考えさせられる。 ご購入はこちらから→ |