• 2014年11月30日
    フェスティバル/トーキョー14は閉幕いたしました。たくさんの方にご来場いただき、心より御礼申し上げます。

2015年4月6日

ディレクターズ・メッセージ:「フェスティバル/トーキョー in ソウル」開催について

 

   来る4月18日(土)-19日(日)、韓国・ソウルで行われる多元(ダウォン)芸術国際フェスティバル「フェスティバル・ボム(会期3月27日-4月19日)」において、国際交流基金との共催で「フェスティバル/トーキョー in ソウル」を開催します。

 開催にあたり、ディレクターズ・メッセージを掲載いたします。ぜひご一読ください。

 開催概要については3月25日付のニュースをご覧ください ⇒ NEWS:「フェスティバル/トーキョー in ソウル」開催決定

 

フェスティバル・ボムでの F/T 開催について

 フェスティバル・ボムにおいてフェスティバル/トーキョーが開催されることについて、私はこの上ない栄誉と考えると同時に心よりのお礼をまず述べておきたい。私は、フェスティバル・ボムの毎年のプログラムを常に高い関心をもって注視してきた。そして韓国の新しいアートの動向、特にダウォン芸術について驚きと感嘆の感情を抱き、フェスティバル/トーキョー14 においてダウォン芸術の特集を組んだ。そのプログラムは、フェスティバル・ボムのディレクターの李丞孝氏の協力なしにはできなかったもので、改めて感謝の意を表明したい。


 今回フェスティバル/トーキョーより二つの特徴的な作品を紹介させていただきたい。フェスティバル/トーキョー14 のプログラムは大きく二つの特徴をもっている。その一つは、美術家等の他のジャンルのアーティストと舞台芸術のアーティストのコラボレーションである。複数の異なった分野のアーティストの共同作業によって作品を生み出している。作品「動物紳士」は、観客から見るとダンス作品でもあり、美術作品でもある。一人のアーティストが孤独に作品を創るスタイルが近代のアート観であると思うが、多様性が重視される現代では複数の価値観の異なったアーティストがコミュニケーションの中から作品を生み出していくスタイルがふさわしいと私は考えている。これは当然にも「ダウォン芸術」というものを強く意識した結果である。複数のジャンルのアーティストが共同で作品を創ることでジャンルの境界を越えていきたいと考えて、冒険した作品である。従って、振付家が美術家に舞台美術を発注したものではなく、最初のコンセプトから共同して創ったものである。大変危険な冒険であったが、想像した以上の成果をあげていると考えている。フェスティバル/トーキョー14 ではそのようなスタイルでクリエイションした作品が 4 つあるが、その中からの一つ「動物紳士」を紹介することにした。振付家、ダンサーの森川弘和は、フランスでマイムとサーカスを習い、現在日本の第一線で活躍している。また、コラボレーションする杉山は、演劇からダンスまで幅広い作品の舞台美術を手がけ、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞も受賞した気鋭の美術家である。


 もう一つの特徴は 2011 年 3 月日本の東北地域を中心に発生した大地震と津波、及びそれに伴う原発事故に関することがらである。これまではその大災害をどのように受け止め、それを演劇作品としてどう表すべきかという方向性のもとに創られた作品を紹介してきたが、フェスティバル/トーキョー14 では、その震災を身近に体験したことから生まれた作品を紹介している。通常人々は、知らぬ間に自分の能力の限界を設定し、そこを踏み越えることはなかなか難しいが、人々は体験したこともない異常で過酷な状況の中に置かれると、自分の限界と思い込んでいた境界をはるかに越えた能力を発揮することが可能である。またそのような人々が新しい世界を切り開いていくものだろう。それは一種奇跡のようなものであるが、しかし実際はもともと人間に備わっている能力である。今回紹介する「もしイタ〜もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」はそのような作品である。出演者はすべて日本の東北にある青森県の高校生たちである。作・演出の畑澤聖悟はその高校の教師でかつ日本ではかなり有名な脚本家・演出家である。この作品は、何度も震災被災地の仮設住宅に避難している人々の前で公演している。生き残った高校生たちがどのようにこれから生きていけばよいのか、をテーマにしているが、まったく何も使わない舞台ととても早いテンポで進むアンチリアリズムな演技、死者の霊を呼び出す霊媒者(イタコ)の設定など、フェスティバル/トーキョー14でももっとも評判の高かった作品の一つである。これまで日本の公共放送「NHK」で全編が放送されたり、各メディアに大きく取り上げられるなど、日本の演劇の歴史を調べても高校生の演劇がこのような評判を得たのは初めての出来事であろう。公演予定日の 4 月 18 日は、韓国の「セウォル」沈没事故が起きて 1 周年の直後であり、同じように死者の鎮魂と生きているものたちのための作品として捉えることができると信じている。日本においても、震災を受けた人々や原発事故についてはほとんど何も解決していない。


 その他、フェスティバル/トーキョーで発表された作品の映像での紹介をしながら、ソウルの文化関係者とよりよい関係を作り出すための長い取組みの重要な結節点となることを期待し、また最大限の努力はする決意である。これから数十年の未来から歴史を見たとき、2015 年のこのプロジェクトが文化交流の歴史を変えたのだと言われることを期待してこの文を締めくくりたい。


2015 年 2 月 10 日

フェスティバル/トーキョー ディレクター 市村作知雄

※こちらの文章は、フェスティバル・ボム公式サイト内の「フェスティバル/トーキョー in ソウル」プログラムページにて、日本語・韓国語で掲載されています。