F/T ブックス

フェスティバルに参加するアーティストからの選書をご紹介する「F/Tブックス」。
本を通じて、フェスティバルや作品世界により深く足を踏み入れることのできる企画です。
今年は「想像力」や「現在の活動に影響を受けた本」というテーマで選んでいただきました。

観劇前に、観劇後に、アーティストにとっての表現の燃料や想像力の使い方をのぞいてみませんか?
きっと観劇が、より味わい深いものになるはずです。

展示

日程 10/13 (Tue) - 11/15 (Sun)
会場 ジュンク堂書店 池袋本店 9F
(〒171-0022 東京都豊島区南池袋2-15-5)

『移動祝祭商店街 まぼろし編』

杉山 至(企画デザイン)による選書

デザインの自然学

「デザインの自然学」 ジョージ・ドーチ

生物の姿形や人間が作り出したもののカタチに隠れているロジックからデザインを考える本。
だいぶ前に出版された本だが、何か発想しようと思う時に必ず原点のように記憶に浮かび上がってくる本。
ダビンチの人体比例の図に黄金比を発見したり、生命の成長曲線が描くかたちにヒボナッチ級数の数比を発見したりと、初めてこの本にふれた時は禁断の書に触れてしまった思いだった。
ネット無き時代に様々な事象に現れるカタチをこれでもかと横断しながら探っていく様は謎解きのよう。
デザインの本だが生命の神秘に触れる核心の書。

9784791772742/青土社 → 購入はこちら(外部リンク)

宇宙船地球号操縦マニュアル

「宇宙船地球号操縦マニュアル」  バックミンスター・フラー

20世紀を代表するアメリカの鬼才発明家フラー。失敗も多いのだが、最小限なもので最大の効果を出すことをとことん追求しつづけた。この本の冒頭でフラーがたとえ話で語るピアノの天板の話は想像力とはいかなるものか?を言い得ていると思う。
乗っていた船がもしも難破して、ピアノの天板が流れてきたとき、人はそれにしがみつき幸運にも助かったと思う。それが本来は助かる最良の方法ではないにもかかわらずだ。あらゆる事象に対して、人はどれだけの数のピアノの天板に必死にしがみついていることだろうか?とフラーは問いかける。21世紀前半、環境破壊は加速し地球温暖化等により災害は巨大化し、一方で感染症が世界を覆っている。フラーだったらどう切り込んだだだろうか?

9784480085863/筑摩書房 → 購入はこちら(外部リンク)

『移動祝祭商店街 まぼろし編』

坂本 遼(企画デザイン)による選書

断片的なものの社会学

「断片的なものの社会学」 岸 政彦

《祝祭とためらい》の章に描かれている、
「どちらが大切ということではない。私たちには、どちらも欠けているのである。」
という結びがやけに刺さりました。
どんな場面のコミニケーションも、この想像に気づくための行為なのかもしれないと思いました。

9784255008516/朝日出版社 → 購入はこちら(外部リンク)

「環境と心理」  METAFIVE

environmentalの英単語にmentalが内包されてる不思議と、
タイトルが言い得て妙で、今年は、環境と心理が世界を覆ったと思います。
一方で、歌詞は情景を歌っていて、もしかしたらScenographyを因数分解すると、「環境」と「心理 」に行き着くのかもしれないと逆算してしまいました。

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カステラ

「カステラ」 パク・ミンギュ

冷蔵庫にしまう想像力をわけてもらえます。
知らない世界だけど、わかるなあっていう気持ちになれます。
見たいものしか見てないよね、わかりたいものしかわからないよね、
という再確認かもしれません。

9784906681396/クレイン → 購入はこちら(外部リンク)

『移動祝祭商店街 まぼろし編』

佐々木文美(企画デザイン)による選書

からだと性の教科書

「からだと性の教科書」  エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン

久しぶりに美術館と劇場と映画館に行ったら、思考と感覚のバランスがちぐはぐしてて、疲れた。想像力を働かせる作業は身体内で行われていると思う。
0cm未満にある自分の臓器の容量に気づかず、食べ過ぎ、飲み過ぎ、寝過ごして調子が悪い。
ということで身体のことを知りたくなり、性についての本を読み始めたこれが1冊目の本。 自分は人間で肉体で、女で生まれて37年経つ。
勉強して、受け入れて、身体の内も外も、想像しながら楽しく付き合っていきたい。
この本はどちらかといえば女子じゃない人におすすめしたい。

9784140818053/NHK出版 → 購入はこちら(外部リンク)

『移動祝祭商店街 まぼろし編』

中村友美(企画デザイン)による選書

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「人形道祖神―境界神の原像」 神野善治

9784560040607/白水社

世界をまどわせた地図

「世界をまどわせた地図」  エドワード・ブルック=ヒッチング

9784863133914/日経ナショナルジオグラフィック社 → 購入はこちら(外部リンク)

『移動祝祭商店街 まぼろし編』

阿部健一(ドラマトゥルク)による選書

都市の自遊空間

「都市の自由空間」 鳴海邦碩

道とはなにか? 交通のための空間だと道路法はいう。
でも道は法律ができるはるか前からある。鳴海先生の示す道のはなしは、気持ちがいい。道の話が駅、地下街、ビルの廊下、エスカレーターなどのあらゆる「道的なもの」へ広がる。人間が集住する際に必ず共用の空き地が生まれ、それは鳴海先生を「自由空間」と呼ぶ。自由空間には生活がある、共同作業がある、まつりがある。道は、自由空間だ。読み終えておもてに出ると、アスファルトの向こう側にいつもと違う景色が見えてくる。その景色の中にいまもいる。

9784761524715/学芸出版社 → 購入はこちら(外部リンク)

うたげと狐心

「うたげと孤心」  大岡 信

まちに繰り出しひとと関わる中で演劇活動をしてきたけれど、まちを見ているからといってひとを見ていることにはならないと気づいた。同じ頃に、コミュニティ、地域のつながり、まちづくりへの自分の想定にも疑問がわいた。孤独を直視するところからまたはじめようと思ったときにこの本を紹介された。大岡さんが日本の古典詩歌に見出した「うたげ」と「孤心」の緊張関係に、「孤」と裏表の「共」のあり方があると実感し、訳がわからなくなった時に戻ってくる一冊として棚に並べている。

9784003120224/岩波書店 → 購入はこちら(外部リンク)

SAGE質的研究

「SAGE質的研究キット 2 質的研究のための「インター・ビュー」」 スタイナー・クヴァール

研究者向けのインタビュー調査の手引き、という体だが読者が目にするのは「ひとの話を聞く」という行為のもつ広さと深さをめぐる問いかけ。著者は、インタビューは対象者がどのように世界を理解しているかを探究する場、すなわち「インター・ビュー」であると前置きし、インタビューで生成される知とは何か、という前提から確認する。《坑夫=知を掘り起こし集める者》と《旅人=関係の中で知を生成する者》というふたつのメタファーは、現場に出るときの(心の中の)頼れるツールになった。インタビューの倫理の問題にもページを割いている。そこだけでも読んでほしい。

9784788514751/新曜社 → 購入はこちら(外部リンク)

『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』

Hand Saw Press 安藤僚子(ディレクション)による選書

斜めにのびる建築

「斜めにのびる建築」 クロード・パラン

Hand Saw Pressを「街に開く」ため、都市と空間のことを想像して、ふと思い出す本。1964年フランスの建築家パランが提唱した「斜めの原理」は、床や壁を斜めにすることで、壁も天井も歩け、空間が繋がり都市が輝きだすという。なんという想像力!

9784791764402/青土社 → 購入はこちら(外部リンク)

公の時代

「公の時代」  卯城 竜太、松田 修

「インディペンデントでありながらパブリックな場をつくる」Hand Saw Pressとして、「公」について若いアーティスト2人が語るこの本には刺激を受けた。今年のF/Tで私たちは、公園や図書館にも展開する。公の場で自分と違う人のことを想像する。それこそが公を共に創造する第一歩だと思う。

9784255011356/朝日出版社 → 購入はこちら(外部リンク)

『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』

Hand Saw Press 菅野信介(ディレクション)による選書

くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話

「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話」  ヤマザキOKコンピュータ

パンクスであるヤマザキOKコンピュータさんが書く経済の話。爽やかでユーモアたっぷりの文章に引き込まれる。挿絵も最高。小さくても自分の周りにある好きな事、大事なもの、これからも元気でいてほしい人やサービスにお金を使う。難しいことじゃないはずなんだけど、忘れちゃうことがある。仕事で忙しい人に特におすすめしたい。投資を「投票」に例えていたりして、政治の話でもあり、生き方と態度の話。

9784907053406/タバブックス → 購入はこちら(外部リンク)

三体

「三体」 劉 慈欣

近所にたまにお酒を飲みに行くお店があって、そこの店主が本が大好きで、自身でも出版していたりするのだけど、こないだ行ったときに「三体」の話になった。彼は目をキラッとさせて「これは絶対読むべし」と。ぼくはたくさん読むわけではないのだが、SFやハードボイルド小説を無性に読みたくなる周期があって、店主のリコメンドと重なり、彗星のように巡り会えた一冊である。めっちゃ面白い。実写化も決まっているようで、これを機にNetflixを契約してしまうかも知れない。

9784152098702/早川書房 → 購入はこちら(外部リンク)

『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』

宮永琢生(ゲストアーティスト)による選書

濡れた太陽

「濡れた太陽 高校演劇の話」  前田司郎

劇作家・演出家・劇団「五反田団」主宰であり、三島由紀夫賞を受賞した小説家でもある前田司郎氏による高校演劇部を舞台とした青春小説。しかし青春小説と侮るなかれ。本書は、高校生のフィルターを通して描かれた作者自身の圧倒的な演劇論である。演劇は、舞台上で起こるものではない。演劇は、客席にいる我々一人一人の想像力の中にある。

9784022509376/朝日新聞出版 → 購入はこちら(外部リンク)

コーヒーと恋愛

「コーヒーと恋愛」  獅子文六

劇団「文学座」創始者のひとりである岩田豊雄氏の小説家名義「獅子文六」による新聞小説『可否道』を改題した文庫版。1960年代の新劇やテレビという新しいメディアに浮かされた俳優たちの恋愛模様が描かれる。読んでいると、誰もが半世紀前の東京を夢想し、あの時代に迷い込んだような気持ちになるのではないだろうか。サニーデイ・サービスの「コーヒーと恋愛」も必聴。

9784480430496/筑摩書房 → 購入はこちら(外部リンク)

たましいの場所

「たましいの場所」 早川義夫

シンガーソングライターであり、著述家でもある早川義夫氏によるエッセイ集。どこまでも本音で語られる心震える言葉の数々。自分もまだ "たましいの場所" を見つける旅の途中。これからの未来を想像した時に、いつも手元に置いておきたい人生の一冊。

9784794965394/晶文社 → 購入はこちら(外部リンク)

『とびだせ!ガリ版印刷発信基地』

YUKI(ゲストアーティスト)による選書

サブリナ

「サブリナ」 ニック・ドルナソ

サブリナの失踪後の話なので、サブリナという人物については彼女の身の回りの誰かの回想か、人々の妄想や噂が先行するソーシャルメディアなどでしか計り知ることができないのだが、知人の知る彼女とネット上に出回る彼女の笑顔の写真はどこか別人の様に感じる。話は主人公不在のまま、ソーシャルメディアにおける想像力の乏しさ故に鵜呑みにされコピペされ伝言ゲームのように拡散され、やがて事実無根にも関わらず関係者が陥れられ焦燥し切っていく不安定さは、昨今よく見受けられる光景が反映されている。

9784152098832/早川書房 → 購入はこちら(外部リンク)

海辺

「海辺」 レーチェル・ルイス・カーソン

今夏は、毎週のように友人が素潜りに連れて行ってくれて有意義であった。シュノーケルで海中に顔を付けた瞬間、そこには地上から見た海からは想像も付かない海の生物の暮らしが果てしなく拡がる空間があり、その存在の大きさに感銘を受ける。この本の著者は海洋生物学者でもあり、環境保護運動の始まりとなった「沈黙の春」では環境問題に警鐘を鳴らしたのだが、未だ問題は酷くなる一方だ。本書は、カンブリア紀の昔からたゆまず続けられる生物の生と死の営みの記憶が次第に現れ、生命が幕開けした海辺へ立ち戻る事ができ、海洋汚染に対する指標となる。

9784582763393/平凡社 → 購入はこちら(外部リンク)

マツタケ

「マツタケ」 アナ・チン

人間が自然を支配しようとしたが故に、地球環境は壊滅的な状況に追い込まれている。だがこの疲弊した環境下で尚も、マツタケは撹乱された林に偶発的に発生する事ができる。また樹木と共生する事で存在し、宿主樹木もマツタケのおかげで荒廃した土壌でも育つ事ができるという。人間や人間以外の生物が二項対立的思考ではなく、ともに助け合いながら生きのびる可能性について、一生に渡って出会うものや環境に順応して変形していくマツタケが想像力を拓いてくれるだろう。

9784622088318/みすず書房 → 購入はこちら(外部リンク)

『Rendez-Vous Otsuka South & North』

宇澤とも子(音楽)による選書

サウンドスケープの技法

「サウンドスケープの技法」 小松正史

街に内在する音にはその街の文化や歴史が潜んでいます。私たちは「街の音を視つめること」によって街を知ることができるのです。この本は、【音】という観点から街を見つめ、街の声を採取する方法が記述されています。新しい物の見方で街と向き合ってみませんか?

9784812207505/昭和堂 → 購入はこちら(外部リンク)

荘子

「荘子」 荘子

私の想像力が最も刺激される一冊です。物や風景など、物質的なものへの想像。心や感情など、精神的なものへの想像。人や物の関係や繋がりに対する想像。過去や未来など、時間を超越したものへの想像。あの世や宇宙の果てなど、未知の世界に対するものへの想像。荘子の寓話には、これらの想像を攪拌させ、一体化させ、リアリティを感じさせる力があると感じています。みなさまも是非、荘子の言葉と共に様々な想像を攪拌させ、みなさま自身のリアリティを感じてみてください。

9784062924290/講談社 → 購入はこちら(外部リンク)

もうひとつの場所

「もうひとつの場所」 清川あさみ

こんな景色があったのかと、想いを馳せてしまう美しくて哀しい〈絶滅・絶滅危惧種〉をテーマにした壮大な作品集です。美しく鮮やかな作品の数々に触れているうちに、想像が増し、私たちが失ってしまうかもしれない存在に対し慈しみが湧いてきます。「描かれた場所とは一体どこなのだろう」...そんな想像をしているうちに、どんどんと時間が過ぎていきます。

9784898153109/リトルモア → 購入はこちら(外部リンク)

モモンガ・コンプレックス『わたしたちは、そろっている。』

白神ももこ(振付・演出)による選書

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「木下順二作品集 2 おんにょろ盛衰記」 木下順二

『おんにょろ盛衰記』は木下順二の戯曲でこれも子どもの頃に何度も読みました。一見のんきな雰囲気ですが、おんにょろが村人たちのために皆が恐れて嫌っている者を追い出そうとその者の特徴を聞き出すうちに嫌われているのがなんと自分だったと分かった時のどうしようもない哀れさが心に刺さります。最初は、おんにょろと村人のやり取りのちぐはぐを笑っていた(そこが大好きでリピートしまくってた)のだけど笑えるからこそのラストの哀れさ。普段やっている善意や親切心は奢りなのでは?と不安になります。

9784624913021/未来社 

とおいみなみのしま

「とおいみなみのしま」 加納 登

今の活動に影響を与えている本、
と聞いて何故か一番に思い出されたのが子どもの頃にお気に入りで何度も読んでもらっていた絵本、『とおいみなみのしま』。
どんな作品だったっけと読み返してみたら、まさにモモンガ・コンプレックスみたいな世界感!
物語はいたってシンプルで明るくてゆるーい絵本です。飛行機に乗ったことのない人たちが、飛行機の概念を知らずに乗り合わせ、添乗員のお姉さんの困惑を他所におおらかに展開していくお話です。ブタやトリやヘビなどを乗せ、海に不時着して漂流しても焦ることなく「飛行機ってこんなもんかね〜」とのんきにその場を楽しんでいます。近代社会における普通や既成概念、ルールというものに対して、人間が本来もつ逞しさや生活感を思い出させてくれます。
好きな台詞は、「ブタもつててきて、よかったべ」
ギスギスせずゆったりと流れる時間にこんなみなみのしまに住みたいと子どもながらに思ったり。

福音館書店

秘密の花園

「秘密の花園」 フランシス・エリザ・バーネット

『秘密の花園』は、初めて読んだ長編で何度も何度も読んだ覚えがあります。喘息持ちで警戒心が強くて引っ込み思案な子どもだった私は、とにかく庭に出て身も心も健康になっていく主人公メアリの姿に勇気づけられ、縄跳びを持って遊びに行ったり、とにかく誰とも約束してなくても外に遊びに行くようになりました。物語に入り込みやすい妄想タイプだったので、メアリの天涯孤独を装ったり風邪を引いて寝込んだ時はコリンになった気持になって過ごしたり、外で日に焼けることで自信をつけたりしていました。一人で平気で富士そばに入る女子になったのもきっとそのせいかもしれません。

9784102214046/新潮社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T × BIPAM 交流プロジェクト『The City & The City: Divided Senses』

櫻内憧海(参加メンバー)による選書

息吹

「息吹」 テッド・チャン

小さく精巧な歯車の回転が滑らかに連動し大きな機械を動かすように、物語上で語られる様々なSF的ギミックが、気付かぬ内に私達の現実の問題との相似形を成していく。
そんな言葉と構成の美しさに、人間の創作物たるフィクションが如何に現実と関係を持っていけるのか、現代社会と演劇の繋がり方のヒントがあるように感じました。
あと、装丁がめちゃくちゃカッコ良い。珠玉の短編集です。

9784152098993/早川書房 → 購入はこちら(外部リンク)

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「Gift」 古川日出男

日常の中に無数に撒かれた想像力の種から育てられた20の掌編が、それを読んだ私達を通してまた新たな想像力の種を撒き、 日常の中に小さな非日常の可能性を潜ませる。
現実とフィクションのあわいがぼんやりしてくるような、そんな感覚がもたらされる一冊です。
飛行機や新幹線で長距離移動する際には、なんとなくいつもカバンに入れていってしまいます。

9784087462333/集英社 → 購入はこちら(外部リンク)

道化師の蝶

「道化師の蝶」 円城 塔

文章という形態をとっている時点で、それは全て想像力とは切り離せないのでは?と思います。
テキストそれ自体は色も、臭いも、重さも無い単なるデジタルな符号の羅列でしかなく、私達は無意識にそれらをデコードし、経験則に基づいて情報に変換しているに過ぎません。
円城塔さんの作品には、一文一文の意味は理解出来るのに、まとまった文章となった途端、複雑な構造に飲み込まれ、 文章の意味を捉えられなくなる=デコード出来なくなる瞬間があります。
想像出来るのに想像出来ないテキスト。想像力が上手く機能しなくなるテキスト。
言葉から意味がさらさらとこぼれ落ちていき、純粋な記号としての言葉が垣間見える。
単に私の読解力が足りないだけかもしれませんが。

9784062930079/講談社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T × BIPAM 交流プロジェクト『The City & The City: Divided Senses』

曽根千智(参加メンバー)による選書

サンドイッチ・バイブル

「サンドイッチ・バイブル」

サンドイッチが好きだ。小学生2年生の頃、テレビで「BLTサンド」の存在を知って、なんだそのかっこいい名前は、と思ったときから好き。トマトに目がないのでBBLTTTTTTTくらいの比率がいい。サンドイッチはいつだって自由を謳歌していて、そうして少しひねくれている。

9784816358968/ナツメ社 → 購入はこちら(外部リンク)

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「都市図の系譜と江戸」 小澤 弘

絵図は具体的、地図は抽象的。一般的な定義ではそうだが、やまと絵では、時間や空間を歪める「すやり霞」や「金雲」という必殺ワープ術が使えるので、絵図だからといって街の写実的な描写であるとは限らない。あらまほしき東京の姿を祈るように描いた都市図の系譜をたどり、都市図のフィクションを捉え直す。

9784642055369/吉川弘文館 → 購入はこちら(外部リンク)

無対象の世界

「無対象の世界」 カジミール・マレーヴィチ

白のキャンバスに黒の正方形のみを配置した抽象絵画で有名なマレーヴィチによるシュプレマティズム論。絵画というのは面を持つ以上、常に「何か」を映さねばならないという常識をぶち破ったところがすごい。何も書かないことで鑑賞者の感覚を引きずり出し、共犯関係を作ろうとする姿勢は「不在」を扱う演劇創作にも通じるアプローチ。

9784805510612/中央公論美術出版 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T × BIPAM 交流プロジェクト『The City & The City: Divided Senses』

渡邊織音(参加メンバー)による選書

空間に恋して

「空間に恋して―象設計集団のいろはカルタ」 象設計集団

私自身が家に閉じこもりがちな仕事にある傾向の昨今。
五感をすべて感じて空間を捉えなおす根本を追い求めながら
ありふれた街を歩いていて、風音、雑音、声や音楽を聞くために歩いていたと思い出している。
広場や公園の真ん中であふれている人々と風景に触れていくことと、ある詩人が、同じ一節を繰り返し詠うことによって徐々に立ち上がる風景を示すように、言葉が空間や感覚をもたらすこともあるのだということを気づかせてくれた。本棚を前にしてずっしりとした本を自然と手にしていたことを実感していた。

9784875023838/工作舎 → 購入はこちら(外部リンク)

植物の生の哲学

「植物の生の哲学」 エマヌエーレ・コッチャ

引きこもりがちな昨今、人の気配すら感じなくなってしまった。ふとして、自分の存在を感じるようになってきて、その自分の感覚すらもが消えそうになって、消えかけた感覚で、ふと横を見たら、全く手の加えられていない更地がたくさんあって、草が無造作に生え、私の背よりもはるかに高く伸びている風景が暑いゞ真夏に立ち現れていた。そこは売地になっていたが、記憶をさかのぼると、ペットとその雑貨が売られている大きな犬の看板が付いた古い平屋の店だった。ふつうの風景の変化がいつもよりも繊細に気づくようになってきた。ふと更地に戻る。その大地には必ず生えてくる種があって、根を伸ばし、逆らうように、すっと葉っぱが伸びていく。草の動きは大気の循環と方向に気づかせてくれる。無数に生える雑草ではなく、人間的な存在として教えてくれている、ような気がする。

9784326154616/勁草書房 → 購入はこちら(外部リンク)

王と天皇

「王と天皇」 赤坂憲雄

バンコクと東京のクリエーションが進むにつれて、それぞれのアーティストの背景に横たわっている生活や日常を交換するようになった。お互いの国への旅行経験のない人たちがたまたま集まったことや、ときどきSNSで流れてくるバンコクの今、を見るたびに経済活動と時間の停滞がもたらした新しい生活は、中立な生き方を導いている。無理のかかってきたスピードに手がかかったことを気づかせてくれた。もう一つ大きな見えない歴史を感じた。

9784480080981/筑摩書房

水の生きもの

「水の生きもの」 ランバロス・ジャー

眼をつむって読むことができるかもしれないと思った。表紙があって、ハードカバーでしかも版画で、ぼこぼこと手触りがあって魚の鱗の様だと思ってめくる。各ページが版画用の厚紙で、絵具と引掛かりのよさそうなざらざらとした紙の触感と、ここでも鱗の様な波紋が広がっていく。眼を開けた一瞬に、線の細かさに動き出している錯覚を覚えた。本を近づけてみた時に絵具の匂いを感じ、非常に繊細な作業から感じる彫刻作家の情熱と人肌の温度と、インドと私の出会いを生き物たちが生きたままそこに放たれているように描かれて自由に動き回り、目の前にある作品のひとつひとつにその存在感を今も記憶している。

9784309274034/河出書房新社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T × BIPAM 交流プロジェクト『The City & The City: Divided Senses』

ピヤワン・ニン・サップサムルアム(参加メンバー)による選書

河童

「河童」 芥川龍之介

日本近代文学の専攻で、卒業論文として取り上げた作品の一つ。日本文学に興味を持ち始めた時に、出会った短編。妖怪というジャンルで着目したけど、「異国」や「異人」への解釈について考えさせられた。各国に決まっている暮らし方があるかもしれないが、どんな暮らし方が正しいか簡単に言えないことが、河童たちから気づきました。そして、この作品がきっかけでマジックリアリズムというジャンルにハマるようになりました。

9784000073615/岩波書店 → 購入はこちら(外部リンク)

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「地球で最後のふたり」 プラープダー・ユン

高校の時に出会ったタイ人作家の作品。主人公は、異文化の中で育っていたタイ人と日本人。言葉より感覚や雰囲気でお互いにコミュニケーションを取っている描写。なんとなく伝わっているようだけど、なんか寂しい感じ。その得た気持ちを思い出しながら、言葉の道を選んできてよかったと思っています。映画化もされたので、ぜひ日本人の皆さんにも鑑賞してほしいと思います。

9784789722803/エムオン・エンタテインメント

映画「ドリーミング村上春樹」

言葉と戦っているような翻訳の仕事。憧れているが、一人で悩む時も少なくない。偶然にこの映画を見たけど、「完璧の文章などといったものは存在しない」というセリフに心打たれて、今でも何回も救われている。完璧な文章はないのだが、自分の目にある言葉を尊敬しながら、丁寧な形に置き換えていくのが自分の生きがいってインスピレーションを得ました。

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『ダイアローグ・ネクスト』

中尾根美沙子(総合監修)による選書

目の見えない人は

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」 伊藤亜紗

見えないことと、目をつぶることは全く違うという前提のもとで、「見えている状態を基準として、そこから視覚情報を引いた状態ではなく、視覚抜きで成立している体そのものに変身したい!」という筆者の伊藤さんの願望が真の想像力を感じる1冊です。

”「見える」ことが見えない世界を作っている。”

無意識的に囚われている自分の当たり前に意識を向けるきっかけをもらい、五感を感じながら想像力の幅がググッと広がる感覚を得ます。

9784334038540/光文社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T アートディレクション

高田 唯による選書

FACTFULLNESS

「FACTFULNESS」 ハンス・ロスリング

普段見たり聞いたりするNEWSやSNSからはバッドニュースばかり。僕たちはこんなにも改善された世界に全く気づいていない。
現代社会の動向、世界の状況を、確実な数字とわかりやすいダイアグラムによって解説してくれ、気持ちまで解してくれる。
僕が本当に知りたかった世界の情報はこういうことだ。
美しくなったこと、良くなったこと、そっちの発見力を磨いていこう。

9784822289607/日経BP社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T イラスト

芳賀あきなによる選書

愛すべき娘たち

「愛すべき娘たち」 よしながふみ

ある母娘と、その周囲の女性たちを軸にしたオムニバスストーリーです。
多くの人がその中で生きる「家庭」という膜の中で醸成され、
次世代へ形をかえつつも受け継がれていくもの。
日常的にそれに浸されているが故に存在していることにも気づかないもの。
その中で生きる「娘たち」を、淡々と、ときに軽やかに描いています。
この先、家庭が緩やかにかたちを変え続ける先の未来で語られる「娘たち」は、どのような姿をしているでしょうか?

9784592132950/白泉社 → 購入はこちら(外部リンク)

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「「インクルーシブデザイン」という発想」 ジュリア・カセム

デザインを決定するプロセスからその機能を果たす先のユーザーに至るまで、
「インクルーシブ=包括的」に考えることの効能と実例が語られています。
あらゆる方面において、マジョリティ、優位者のみによって決定されたデザインは、気づかぬうちにマイノリティを排除してはいないか?
マイノリティに優しいデザインはマジョリティにとっても優しいという考えと、
「想像」をする前にはまず「知」らなければいけないのではないか、という気づきを与えてくれます。

9784845913022/フィルムアート社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T 音楽(PR動画)

東郷清丸による選書

おいしいもののまわり

「おいしいもののまわり」 土井善晴

暮らしの根幹をつくる「料理」と「食べること」、その周辺についての思索の数々。時間をかけて蓄積された思想に触れると、ついつい真似をしたくなります。最近になってはじめて、台所に立って料理をするようになりました。難しいレシピを作る技術はありませんが、「美しいものはおいしい」と捉えなおし、目・耳・鼻・舌・指先…五感が喜ぶほうへと料理をしてみると、食べたい味に自然とたどり着くことができるのが不思議です。

9784766128260/グラフィック社 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T デザインコーディネーター

北條 舞による選書

愛のエネルギー家事

「愛のエネルギー家事」 加茂谷真紀

想像力の種は日常にこそたくさんあると思っています。食べ、眠り、次に向かうエネルギーを整えるために丁寧に行う家事は、自分が自分にしてあげられる最大の愛なんじゃないかなと思います。愛と言うと少し重いかもしれないけれど、それはつまり、上下を作らず、良し悪しも分けず、すべてをそのまま受けとめるようなことなのかなって。そうして境界がなくなったときに、ふと感じること、ふと思い出すこと。これが想像力を羽ばたかせる元になる気がします。

9784909957016/すみれ書房 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T デザイン

齋藤拓実による選書

かおPLAY

「かおPLAY!」 tupera tupera

かおPLAY!は立川のPLAY! MUSEUMで行われている「tupera tuperaのかおてん.」の公式ワークブックです。
デザインをAllrightで担当しました。ブックの制作中ついついクスクス...
tupera tuperaさんが作るお題やイラストの発想が豊かで、ついつい笑顔になってしまいました。
このワークブックで遊ぶと、日常のものが不思議と顔に見えたり、周りの景色の見え方が少し豊かになるかも。

9784908356179/ブルーシープ → 購入はこちら(外部リンク)

F/T ディレクター

長島 確による選書

いかにして民主主義は失われていくのか

「いかにして民主主義は失われていくのか」 ウェンディ・ブラウン

「新自由主義」と呼ばれる考え方がどういうものなのかを言語化し解き明かしてくれる本。いまさらながら、この10年20年もやもやしていたトピック(自己責任とか、いいねの数とか、実学偏重とか生産性とか)が、じつはこんなに一貫性のある理屈(新自由主義的経済合理性)でつながっていたのかと、ぞっとしました。わたしたちは自分の資本価値を上げる資本家で、そのゲームの勝敗はすべて自己責任。文化も教育も健康もすべてそのためのツール。そういう世界にわたしたちは生きていた。想像力は、ここから離脱し次の世界を思い描くためにこそ使いたいと、個人的には思っています。

9784622085690/みすず書房 → 購入はこちら(外部リンク)

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「BRUTUS 2020年 5月1日号 No.914 いつか旅に出る日。」

今年世界中で移動規制が広がる真っ只中で出た特集。こんなことになる前から準備していた企画だとは思うけれど、あまりにすごいタイミングでした。コロナ以前と以後の世界の変わり目をしみじみ感じさせてくれます(この次号「Home Sweet Home」もよかった)。

27751/マガジンハウス

現代美術史

「現代美術史」 山本浩貴

アートを自律した「美」の探究のようなものではなく、つねに社会と直接的な関わりをもつ行動や思考として捉えようとする姿勢に共感。パフォーマンスや関係性のアート、アート・プロジェクトなどにも言及。欧米中心ではなく、日本の動向もしっかり押さえられています。この半世紀、社会に応答する多様な問いと実践が次々と生まれ、共存・混在しているのがよくわかる。ひとつの「見通し」を手に入れるのにとてもいいです。

9784121025623/中央公論新社 → 購入はこちら(外部リンク)

世界哲学史

「世界哲学史 1」

演劇・ダンス・パフォーマンスなどについて、特定の国や地域に偏らず、いろんな考えや実践を古代から最新のものまで教えてくれる「身体芸術史」みたいなものがあったらいいなあ、と思っていたら、哲学に先を越されてしまった。まだ読み切れないまま推薦しますがすごい仕事。西洋哲学を早くから受容し、一方で東洋思想の伝統を培ってきた日本の立ち位置が、「世界哲学史」の構築に活かされるはず、というのはなるほどなあと。

9784480072917/筑摩書房 → 購入はこちら(外部リンク)

F/T 共同ディレクター

河合千佳による選書

世界の米料理

「世界の米料理」 荻野恭子

池袋の地下鉄のホームで、お米の袋を持っている人を見かけた。
持ち帰りやすいように持ち手がついている、ジャスミンライス。
彼は重たい袋を持って家に帰るところだろうか。
1993年の米騒動の時、当時小学生だった私も、あの細長いお米に大変お世話になった。
大人の慌てふためく姿をよそに、日本以外の場所でもお米を食べている人たちがいることが
なんだか嬉しく、いつか行ってみたいと思った。
今は、この本に載っているイランの料理ポロを食べに行きたい。

9784416715215/誠文堂新光社 → 購入はこちら(外部リンク)

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「イメージの翼2 細谷巌アートディレクション」

キューピー マヨネーズの広告で、風景と野菜が組み合わさっているシリーズを収録。
みたことのない風景と、みたことのない野菜たち。
野菜は普段食べているものこそ、どこか感じたことのない、モデルばりの表情で
そこにいるような印象。相手の知らない魅力を引出している、悔しい。
風景にも野菜にも興味を持ってしまう、悔しい。
そして何より画面の中には、ロゴ以外に「マヨネーズ」が出てこない、悔しい。

旺文社

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「海苔と卵と朝めし」 向田邦子

「食いしん坊エッセイ傑作選」と副題のついたこちらの本。
読んでいると、まるで目の前にそのお料理あるいは素材が並んでいるような
色も香りもお箸をいれる感触も会話もまるで目の前で起きていることのよう。
「海苔と卵と朝めし」のような日常のごはんだけでなく、旅の味の頁もあり。
ほぼ間違いなく昭和の出来事なのに、何十年もタイムスリップして
目の前に現れるリアリティ。
デパートの地下の食料品売り場に行くと、この本を思い出す。

9784309027654/河出書房新社 → 購入はこちら(外部リンク)