作品について

それでも「物語」を信じて。気鋭の劇作家が切り取る現代の肖像

春と秋を対とするプログラムと位置づけているフェスティバル/トーキョーは、小劇場を牽引する若手の中から松井周に注目し、F/T09春に続いて09秋でも連続して作品を製作する。09春において、松井はドイツの劇作家、マリウス・フォン・マイエンブルグ作『火の顔』を演出し、戯曲に忠実ながらもそこに現代日本の皮膚感覚・身体性を現出させた。09秋では、彼が主宰する劇団・サンプルとの共同製作で、満を持しての新作書き下ろし公演を行う。
松井の作品は現実と虚構の境界を行き来しながら、様々な価値が相対化された世界に生きる人間の生態を描き、演劇におけるリアリズムを根本から問い直し続ける。今作で挑むテーマは、「磁場(=物語)の発生」。「人」と「物語」の関係にこだわり続ける新世代劇作家・演出家が見る現代の“リアル”とは?
08年『家族の肖像』が岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされ、今最も注目される松井周と個性的な俳優陣が織り成す、サンプル最新作は必見だ。

あらすじ

その場所を二人の者が占めるわけにはいかない。
だから男は家を出た。

耳に息を吹き込まれた。
その心地よさを味わいたくて、女は都会にやってきた。

ゆりかごから墓場まで。墓場からゆりかごまで。
私たちは常にサインを受けとりながら進む。
ネズミの死骸、朝の光、エアコンの音、誰かのまばたき、ゴムの感触、
おばあちゃんの思い出等々…
正しいか正しくないかは問題じゃない。
鮮度が頼り。

つまりは出会いの話です。