今回のF/Tの若手公募プログラムの最良の成果のひとつは、テン年代の新しい演劇の到来を強く印象づけたこの作品が入っていたことにあると私は思う。本作を評価する理由は大きく分けて二つある。映画や漫画や音楽といった隣接するジャンルの手法を織り交ぜつつ演劇でなければできない表現であったことと、作品そのものの完成度の高さである。この作品は、ちょうど奇跡的な高さに積み上がったジェンガのように、どこを削ぎどこに置くかを慎重かつ大胆に考え抜いた結果の儚いバランスで成り立っている。それは、演劇の作り手がひとつの作品に対してどれだけ考えどれだけ質を高めていけるかに対するひとつの答えであるだろう。