ユーモアセンスが光る独自の視点と、オリジナリティあふれる振付で身近なテーマを作品化するイデビアン・クルー主宰、井手茂太。これまで、イギリスのダンスカンパニー、ダイバージョンズへの振付や、美術家・椿昇、椎名林檎率いる東京事変など、異分野のアーティストとのコラボレーションにも意欲的に取り組み注目を集めてきた。
今回、井手はフェスティバル/トーキョーからの委嘱を受け、自身初のアジア地域とのコラボレーションに挑む。アジアの国々の中から井手が選んだのは、古来からの伝統文化や自然を脈々と守り続ける一方で、西欧の文化も柔軟に吸収・取り入れてきたタイ。
タイの舞台芸術界では、バレエや伝統芸能をのぞけば、日本のような「ダンサー」と「俳優」の明確な線引きがなく、ダンサーも日常的に演技の稽古をし、また俳優も身体的トレーニングを受けている人が多いことが特徴に挙げられる。彼らはそれぞれの舞台での要求に応じ、ダンサー、俳優という肩書きを使い分けることが多い。それゆえ、身体的トレーニングをメインに取り組む日本のコンテンポラリーダンサーとはまた違った、「自分の個性、魅力を前面に押し出す強さ」がタイのダンサーからは強く感じられる。
本作品のタイトル、そしてテーマとなっているコウカシタ―高架下は、井手自身がバンコクで得たインスピレーションが元になっている。街の中に存在する高架鉄道、高架橋、高架道路。それ自体は東京もバンコクもさほど違いはないが、その高架下に広がる風景には大きな違いがある。本作品では、日本人ダンサーとタイ人ダンサー混合のスペシャルチームにより、文化的なズレや差異を逆手にとった、それぞれから見たトーキョー、バンコクの現在(いま)を描きだす!
本作品に出演するダンサーの選考にあたっては、井手自身がアシスタントと共にバンコクへ渡り2008年10月下旬に2日間のワークショップ形式のオーディションを行った。
予想をはるかに超え、1日目は38名、2日目は70名、2日間で延べ76名が参加し、下は10代から上は50代、職業も「ダンサー」、「俳優」はもちろん、「学生」、「会社員」、「メイクアップアーティスト」、「心理学者」、「経済アナリスト」など、バックグラウンドも様々な個性が光る人たちが集まった。
音楽に合わせて歩く、他の人が歩いているのを邪魔する、与えられた振付を踊る、突然のインタビューに答える。参加者の反応によって次々と課題を変え、テンポよく進めていく井手の手法に、最初は緊張し表情の硬かった参加者も、次第にほぐれ笑いのたえないワークショップとなった。
そして数日間にわたる選考の上、最終的に6名のタイ人のダンサーが選ばれた。