アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集 レクチャー編
ASWARA – マレーシア国立芸術文化遺産大学『BONDINGS』
コンセプト:BONDINGS クリエイティブチーム
作:スリ・リウ
講師・演出:ウォン・オイミン
11/4 (金) ─ 11/6 (日)
会場森下スタジオ
日程11/4(金) 19:30
11/5(土) 14:00☆
11/6(日) 14:00
受付開始は開始時間の1時間前、開場は30分前
※実演の後、レクチャーとディスカッションを予定

☆=終了後、ワールドカフェあり(無料・要予約)
所要時間100分(予定)
言語マレー語(一部中国語・タミル語・英語)、
日本語字幕
参加費自由席(整理番号つき) ¥2,500 (当日+500円)
先行割引¥1,800
5演目セット¥2,000
3演目セット¥2,200
学生 ※当日券共通。当日受付で要学生証提¥1,600
高校生以下
※当日券共通。当日受付で要学生証または年齢確認可能な証明書の提示
¥1,000
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spac Pamphlet当日パンフレット(PDF)




スポーツが象徴する「壁」、まぜこぜの言葉から見える「絆」

 マレーシア唯一の国立芸術大学ASWARAで教鞭を執る演出家ウォン・オイミンが、学生たちと共に送る多文化多言語作品。若手劇作家スリ・リウが、サッカー、バドミントンなどのスポーツを題材に描くのは、民族をめぐる社会的分断やステレオタイプのイメージ、家族の絆の物語。マレーシアの文化や社会についてのレクチャー、意見交換を行なう時間も設け、集まった人びととのより多面的で深い相互理解を目指す。

フォトギャラリー

アーティスト

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スリ・リウ Suri Liu

作家、シナリオライター、放送作家

1977 年 ポンティアン・ジョホール生まれ。本名はラビアトゥル・アダウィアー・モハマド・サレー 、スリ・リウはペンネーム。1998年からウンマメディア、プスタカ・ウィラにてジャーナリスト、作家としてキャリアをスタートさせる。その後、ジョホールヘリテージ財団で図書館司書のアシスタントとして勤務。短編小説の執筆ほか、詩人、作詞家としても活動している。脚本家としてはテレビ番組のほか、子ども向けミュージカルで活躍。演劇批評家として定期的にコラムも執筆している。2003年に中華系マレーシア人と結婚。二児の母。


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ウォン・オイミン Wong Oi Min

芸術学博士、俳優、演出家、マレーシア国立芸術文化遺産大学(ASWARA)演劇学部学部長、ASLI演劇連盟前代表

日本大学芸術学研究科にて芸術学博士号を取得。マレーシア国家資格認定局、パフォーミングアーツ分野、ボー・キャメロ二アン・アーツ・アワード演劇部門、ADA ドラマ・アワードで審査員を務める。
マレーシア華人教職委員会出版の教育雑誌『Anak(子ども)』コラムニスト。マレーシア国営放送(RTM)Ai-FM『名師早点』の評論家。
日本、カナダ、メキシコ、香港、台湾など各地で開催された国際演劇フェスティバルにおいて演劇作品を発表。創作活動の傍ら、様々な機関において審査や評論にも携わる。“多文化共生に向かって越境しよう”( Crossing Boundaries Towards Multicultural Coexistence)という理念の下、創作および研究活動と多方面にわたり活躍している。



ASWARA – マレーシア国立芸術文化遺産大学

マレーシア唯一の国立芸術大学。正式名称はAkademi Seni Budaya dan Warisan Kebangsaan(マレーシア国立芸術文化遺産大学)。芸術分野に携わるアーティストの育成、伝統文化の継承を目的として、1994年に設立された。演劇・ダンスといったパフォーミング・アーツに加え、音楽・映画・アニメーションについても専門の学部を設けており、アート・マネジメント教育にも取り組んでいる。
http://www.aswara.edu.my/web/ms/(マレー語、英語)

ワールド・カフェ

開催日時:11月5日(土)14:00の回終了後
所要時間:約2時間
定員:20名
※要予約。開催日のチケットをお持ちの方のみ入場可


参加者同士で感想をシェアしよう!観劇を通してどんなことを感じ考えたのか、それを自分の言葉にし、また他の人の言葉を聞くことによって、見えてくるものがあります。新しい物語を見つけにきてください。

ワールド・カフェとは・・・テーブルごとに小グループに分かれ、フォーマルな会議ではなくカフェのようなオープンな雰囲気の中で話し合いをする対話の方法です。席替えを数回行うことで、多くの人と情報の共有ができたり、また、そこから多くのアイディアが生まれたり、人間関係をつないだりすることのできる創造的な話し合いの手法として、近年注目されています。話し合いには全員で共通探求するテーマが出されます。
その他詳しい内容やワールド・カフェの様子は下記のサイトをご参照ください。

「ワンダーランド 小劇場レビューマガジン」(外部サイト)
「観客発信メディアWL」(外部サイト)
 観劇体験を深めるワールドカフェ紹介動画

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白川陽一

(ケラマーゴ・ワークス)

名古屋市青少年交流プラザ所属。NPO法人子ども&まちネットの職員であるとともに、対話と学びのファシリテーターを務める。個々の自立や社会参画を育むための、家でも職場でもない第三の居場所(サードプレイス)づくりがテーマ。各種ワークショップの企画、計画、運営(コーディネート)、進行などを行ったり、そのような場をつくりたい人のための相談役として活動する。「静岡から社会と芸術について考える合宿WS(SPAC主催)」ファシリテーター。


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平松隆之

(劇団うりんこ/うりんこ劇場制作部)

阪大1期ワークショップデザイナー。NPO法人芸術の広場ももなも理事。せんだい短編戯曲賞審査員。子ども,地域,演劇をキーワードに様々な活動を行う。主なプロデュース作品:2010/2012年『お伽草紙/戯曲』(原作=太宰治・戯曲=永山智行・演出=三浦基)、2011年『クリスマストイボックス』(作/演出=吉田小夏)、2014年『妥協点P』(作/演出=柴幸男)、2016年『めぐる、ぐるぐる』(作/演出=永山智行)など。



レビュー

ASWARA – マレーシア国立芸術文化遺産大学『BONDINGS』 レビュー
Theatrex Asia, 2016年8月21日

 数年前、晩年のヤスミン・アフマドに対する辛辣な批判に、郷愁や共同的な愛を扱った彼女の映画が「感傷的すぎる」というものがあった。確かに、ニュアンスを拾い上げるような批評は評価されにくく、声高な批判は注目されがちだ。そのうえで、この批判は正当なものであろうか?ウォン・オイミン演出の舞台作品「BONDINGS」はこれと同じ批判に直面しうる。本作では、公衆住宅からの立ち退き要求を受けた、とある中華系家族を題材として、今日のマレーシアのさまざまな民族が抱えもつ物語や感情、境遇に焦点を当て、一連の問題提起がなされる。ウォンが取った戦略は、あえて彼ら登場人物の「前向きな」物語を描き出すことだ。このことは、ヤスミンを批判する人々にとっては気に食わないかもしれない。形式において、「フィジカル・シアター」という手段をとっていることは有効だろう。(シンプルでミニマルな小道具を使った)簡略化された舞台は、現代の問題を浮き彫りにすることに成功している。

 ウォンは、人種的に調和した共同体の重要性を示すために、そのメタファーとしてバスケットボールとバドミントンという「スポーツ」を作品に取り入れた。劇中登場するバスケットボールの球は観客に無数のイメージと想像を喚起する。マレーシアでバドミントンといえば、誰もが共通のイメージを持っているはずだ。この記事を書く間にも、リオ五輪では、マレーシア代表が金メダルをかけて、中国代表に挑むことになっている。重要なのはサーブとレシーブ、何よりも決定打を加えることだが、こんな諺もある――勝利してしまえば、もうゲームは続けられない。勝ち負けを忘れてしまえば、もっと長くプレイできる――これがどのように人種の関係性と結びつくのか?受け入れあうことが、進むべき道なのか?相手からの敬意をえるためには、まずは自分から何かを差し出すべきなのか?これは複雑な問題だ。ウォンはスポーツのメタファーを効果的に活用し、さまざまな問いを忍び込ませた。

 形式的には、基底となるN・チャンとジアイーの物語は、作品の主テーマとほとんど絡み合っていなかった。公衆住宅を買収する権力を持っていたある人物の行動は、抑圧と収奪の一形態にしか見えない。それらの物語は、必然的に国家と人民の対立という構図に回収されてしまうだろう。作品はともすれば国政への批判に終始してしまい、観客の注意をマレーシアの生の人々からそらしてしまう。とはいえ、興味深いのは、いよいよ集合住宅への権利をあきらめなければならないという局面になって、それぞれの住民たちが下すことになる決断だ。そのような究極的に私的な選択に直面した時、人種は問題ではなくなる。人種とは、自己のアイデンティティを充足させるための構築物にすぎないのである。

 出演者たちは、ウォンの演出を形にするために、十分な努力を行っていた。それぞれの役のなかにもっと感情的な変化を見たいとも思ったが、そもそもスリ・リウの書いた戯曲は開かれているというよりも、かなり厳密に書かれたものだった。セリフはおおむね比喩的であるよりも説明的に書かれており、その結果登場人物たちの内面がぼけてしまっている。ひょっとしたら、人物の背景を言葉で説明しない方が有効だったかもしれない。身体的には、役者たちは小道具(バスケットボールの球やバトミントンの羽)に頼りすぎているように思われた。小道具を使って見せているというよりも、見せるために小道具を使っているという感じである。舞台はほとんど何もないため、本作にとって小道具は重要な構成要素になっている。

 最後に、冒頭にも述べたが、「フィジカル・シアター」は最近のクアラルンプールの演劇界では珍しいものだ。この世界でのダンスと「フィジカル・シアター」の区分は明確ではないにも関わらず、後者のための身体訓練を行うパフォーマーは多くない。「フィジカル・シアター」とは、決してダンスの補完物ではない。そこでは、ダンスとはまた別の規律が働いており、ウォンの今回の試みはその意味で注目に値するだろう。ただし、それを実現するには、舞台上に様々なイメージや記号を描き出すに足るパフォーマーの身体が要請される。それが十分に達成されたとき、観客はこの作品(形式、内容、芸術性などのあらゆる要素)を明瞭に読み解くことができるだろう。


キャスト・スタッフ

コンセプトBONDINGSクリエイティブチーム
スリ・リウ
講師・演出ウォン・オイミン

出演シャールール・ミザド、ピング・クー、モハマッド・ファイス、ジェッティ・ナピアー、
モハマッド・ファヒム、メイフェン・リム、アシーク・イックマール

制作エンク・ノル・ザリファー
制作助手シャーミザン・イドゥリス
舞台監督ハフィク・ハッタ
照明ナキュー・アリフィン
舞台美術・道具ズール・フスニ
音楽・音響操作ファイザール・ファウジ
後援マレーシア観光文化省
製作 ASWARA – マレーシア国立芸術文化遺産大学 演劇学部


<東京公演>
技術監督寅川英司
技術監督アシスタント河野千鶴
舞台監督荒牧大道
演出部大蔵麻月
小道具小山内ひかり
音響コーディネート相川 晶(有限会社サウンドウィーズ)
照明コーディネート佐々木真喜子(株式会社ファクター)
字幕横尾優美子
翻訳上原亜季
テクニカル通訳河井麻祐子

レクチャー司会島田靖也
宣伝美術阿部太一(GOKIGEN)
フロント運営十万亜紀子
制作砂川史織、三竿文乃、喜友名織江
インターン黒川知樹、籠田博美、福井花

記録写真青木司
記録映像株式会社彩高堂

協力公益財団法人セゾン文化財団
共催国際交流基金アジアセンター
主催フェスティバル/トーキョー

アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集

多民族社会の現実に応答する多様な表現

 マレー系、中華系、インド系住民などで構成される多民族多言語国家、マレーシア。外資系企業の誘致や、IT、重工業の充実といった経済政策を通じ、積極的なグローバル化を図ってきた同国のリアルな日常、その葛藤とは――。

 同時代の演劇、パフォーマンスを紹介する「公演編」とディスカッションやゲームを通じてマレーシアの社会、文化を伝える「レクチャー編」からなるプログラムには、さまざまな民族的バックグラウンドを持つアーティストが参加。建国間もない1960年代生まれのジョー・クカサス、ウォン・オイミンと、高度成長へと向かう70年代後半から80年代生まれのリー・レンシン、ムン・カオ、スリ・リウら、異なる世代のつくり手の眼差しも、マレーシアの現在をより多層的に描き出す。

 今回のF/Tのコンセプトは「境界を越えて、新しい人へ」。異なる言語、宗教、生活習慣を持つ民族で構成されたマレーシア社会において、アーティストが抱く課題意識、表現手法は、今、まさにグローバル化が生み出す諸問題に向き合いつつ、多様性のあり方を探る日本の観客とも、深く響き合うはずだ。



アジアシリーズとは?

 アジア地域から毎年1カ国を選定し、その国の舞台芸術を中心とするアートを特集するシリーズ。綿密なリサーチを通して知り得た歴史、文化、社会背景を踏まえつつ、現地で活動するアーティストを紹介、さらに多様な言語、文化、身体のあり方を前提とした継続性のある交流を行なう。F/Tではこれまでに韓国(F/T14)、ミャンマー(F/T15)を特集。いずれにおいても、各国のアートシーンを俯瞰しつつ、それぞれの社会のあり方を反映する気鋭のアーティストの作品をキュレーションしてきた。




F/Tトーク 多民族国家マレーシアにおけるアートプロジェクト

マレーシアのマルチメディア・アーティストのファイルズ・スレイマンと、現代美術家ロスリシャム・イスマル(イセ)。それぞれのアプローチで都市を捉え、さまざまな地域で先駆的なアートプロジェクトを展開し注目を集める彼らを招き、同国におけるアートシーンやカルチャーの現状について、都市やコミュニティに焦点をあてたトークを開催する。


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ファイルズ・スレイマン

1982年プタリン・ジャヤ生まれ。ビジュアル、マルチメディア・アーティスト。マレーシアのマルチメディア大学MMU Cyberjayaで映画とアニメーションを学ぶ。主にアナログな手法を用いながら、デジタル様式も取り入れる作品で、インディーズバンドのミュージックビデオの制作、短編映画のアニメーションの制作、音楽イベントでのVJ、舞台演出など幅広い活動を展開している。日常に溢れる物事を主題として扱い、ライブに近いかたちで様々な作品を手掛ける。ユーモアにあふれた親しみやすい物語や手法の中に、シニカルな社会的なメッセージが込められた作品はマレーシアのアート関係者の中でも高い評価を受けている。Digital Art + Culture(DA+C)フェスティバルのプログラム・ディレクターも務める。

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ロスリシャム・イスマイル(イセ)

1972年コタバル生まれ。マラ工科大学卒業。都市コミュニティにおける個人的な経験と大衆文化をもと創作する現代美術家。インスタレーション、ビデオアート、参加型プロジェクトなどその表現方法は多岐に渡る。主な作品にマレーシアの家庭に伝わる料理や伝統をテーマにした「The Lagkasuka Cookbook」(2012)は、英国統治時代に国境が引かれたマレーシアとタイの狭間の地域で生まれた軍隊の食事「マウンテンライス」を、その土地に暮らす祖母の昔の記憶を頼りに、レシピとイラストをまとめ一冊の本にするというアートプロジェクト。またシンガポール・ビエンナーレでは地元の各家庭の冷蔵庫の中身を展示するインスタレーション作品「Secret affair」(2015)を発表し、食を通じて、その土地で暮らす人々やコミュニティ、生活様式や文化を浮かび上がらせる作風で知られている。

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聞き手:
小川希 (Art Center Ongoing 代表/TERATOTERAディレクター)

1976年神楽坂生まれ。2001年武蔵野美術大学卒。2004年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2002年から2006年に亘り、大規模な公募展覧会 『Ongoing』を、年一回のペースで企画、開催。その独自の公募システムにより形成したアーティストネットワークを基盤に、2008年に吉祥寺に芸術複合施設Art Center Ongoingを設立。現在、同施設代表。また、JR中央線高円寺駅~国分寺駅区間をメインとしたアートプロジェクト『TERATOTERA(テラトテラ)』のチーフディレクターも務める。

会場東京芸術劇場 アトリエイースト
日程10/22(土) 15:00
入場料500円(予約優先)
言語英語(日本語逐次通訳付き)
共催国際交流基金アジアセンター

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