去る11月4日、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて、F/T12イェリネク三作連続上演『光のない。』(演出:三浦 基(地点) 音楽監督:三輪眞弘 )の稽古場公開&トークが行われました!
今回は約1時間にわたって行われた本イベントをレポートします。
会場に入るとまず目に飛び込んできたのは、急斜面でむき出しの舞台セット!
建築家・木津潤平さんによるこのセットはご覧のとおり、舞台奥から斜面が幾重にも連なってせり出している形状。奥に見える枠の部分だけが空いていて、手前には窪みとその間を渡る小さな橋のようなものがあります。
こんなセットで、5人の地点の俳優さんたちはどんな演技をするのだろう!?と妄想と疑問が浮かびます。
本番まであと2週間となった現在の稽古では、予定している上演時間100分のうちの70分ほどができあがってきた状況だとのこと。『光のない。』という戯曲名にもあるとおり、"光"をどのように用いようか...音楽監督の三輪眞弘さんをはじめ、各セクションのスタッフや出演者と共に構想を練りつつ、稽古を進めている最中のようです。
舞台セットにはコーラスピットが設けられ、合唱隊が寝そべって(!)歌う予定だとのこと。
会場で展示されていたセットの模型でも、たしかに人が横たわっています...!
そして早速、あるシーンの実演へ。
俳優5名が本番同様の衣装をまとい(うち2名はスイムスーツに足ひれを着用!)登場します。また2名の手にはバイオリンケース(※)も。
※戯曲「光のない。」は「第一バイオリン(A)」と「第二バイオリン(B)」の二者の対話で構成されている
1人が仰向けに寝そべり、かすかな声で歌い始めるところからスタートしたそのシーン。
「光のない。」の特徴であるバイオリン奏者AとBの言葉、しかしそれは単純な対話ではない、制御なく溢れる言葉の連なりと重なり合いが、地点特有の発話、そして身体のあり様によって目の前に現れてきます。
そして時折聞こえてくるのは、俳優による様々なうめき声や咳払い、重なり合う声、そしてかすかになり続ける何かの音...。
見ているうちに、俳優それぞれの存在を目で追うところから、徐々にお互いの距離や方向、その関係性に目がいくようになっていきました。「わたしたち」という主語で展開される発話の主体が転々としていくほど、その言葉と舞台上の身体や空間が緊張関係を増していくのです。息をのむようなスリリングな状況の中、こうして30分続いた稽古、いや上演はあっという間にすぎてしまったのでした。。。
また一度シーンを中断して、「これが何の音かわかりますか?」と三浦さんが客席に尋ねるやりとりも。そこではなぜその音を使ったか......という話もされたのですが、あえてここでは伏せます。実際の上演で確かめてみてください!
続いては観客のみなさんから三浦さんへの質問タイム。ここでは抜粋してご紹介します。
Q."音"については戯曲に記述があるのか
A.イェリネクの戯曲には、本作のみならず基本的にト書きが存在しません。今回の作品で引用する戯曲は全体の半分超えるかどうかの量。イェリネクは「(自身の戯曲は)演劇のテキストではあるが上演のテキストではない」と述べています。戯曲の後半に1行だけト書きがあるのですが、それも「次からの長いパートはAB振り分けても、両方で同時に喋り聞き取れなくしてもよい」といった旨の記述です。あと合唱隊は僕自身が今回使いたいと思った要素です。
Q.俳優達の動きはどのようにつくりあげていくのか
A.今回はいつもに比べて特殊なやり方です。こんなに抽象的な舞台美術でやっていません。10年来具体的な装置、演劇的な物の使い方で演出をしてきたけれど、今回は人と人の関係性のみでの演出を試みています。身振り、関係性、動きの反復とか。ここまで(具体性を)捨てたのは初めてで、坂を上ったり下りたりすること自体を演出の道具にしたりしています。
そして質問コーナーのあとは、なんとセットに直接上っていいというサービス(?)も!写真撮影OKとのことで、実際にのぼってみて俳優さんたちの目線を味わってみました。高いし、怖いです。。。
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遠いオーストリアの地で、しかもメディアを通じての情報のみを手がかりに描かれた『光のない。』。
あの日からの我々を支配した混乱と不安へのまなざし、そして帰らぬ者へのレクイエムとして綴られた言葉の洪水を、当事者である「わたしたち」はどのように向き合い、受けとめるのか。
この問いに対するひとつの回答を、いよいよ日本の劇場で確かめることができる日が近づいています。
F/T12イェリネク三作連続上演『光のない。』
作:エルフリーデ・イェリネク [ オーストリア ]
演出:三浦 基(地点) 音楽監督:三輪眞弘 [ 日本 ]
11月16日(金)~ 11月18日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
プログラムページはこちら:http://www.festival-tokyo.jp/program/12/kein_licht/
チケット好評発売中!http://www.festival-tokyo.jp/ticket/
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そして、★★★超重大情報解禁!!!★★★
ラジオでの『光のない。』上演までのドキュメント番組の放送が決定しました!!
F/T12クロージングに際し、J-WAVE(81.3FM)を聴いて作品を追体験できる特別な夜です。
J−WAVE PLUS
地点 introducing "光のない。"
11月25日(日)22:00~22:54
F/T12参加作品のひとつ、ノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクの戯曲『光のない。』の制作ドキュメント。東日本大震災や原発事故に触発された同作の舞台化を手がける劇団「地点」の代表、三浦 基への取材などを通じて、舞台化への想いに迫ります。