【クルーレポート】ディレクターズトーク 小崎哲哉×相馬千秋×市村作知雄

フェスティバル/トーキョー(以下F/T)のプログラム・ディレクター相馬千秋が、そのコンセプトや意義をゲストとともに検証するディレクターズ・トーク。
第2回のゲストには、東京の最新カルチャー情報を発信しているREALTOKYO, ART iTの編集長、小崎哲哉氏をお迎えしました。また、F/Tの前身である東京国際芸術祭でディレクターを務め、現F/T実行委員長である市村作知雄氏も登場。フェスティバルの舵をとる新旧ディレクターによる、親子(?)対談が実現しました!
12月3日(木)、F/Tステーションカフェにて行われたトークの内容をレポートします。

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《東京国際芸術祭からF/Tへ》
相馬さん:「市村さんに土台をしっかり作ってもらった時代があったからこそ、今こうして私達がその上に載せる物を作っていけます。」
市村さん:「交代の準備は大変でしたよ。30代の娘がフェスティバルのトップになるということを関係者全員に納得させるまで、同じ説明を何度も繰り返してね。」
小崎さん:「どうして交代しようと思ったんですか?」
市村さん:「F/Tは先端型の芸術祭ですから、若い人がディレクターをやるべきです。それに僕はベルリンの壁崩壊以後のドイツ演劇を紹介したり、自分の時代でやるべきことをやってきた。これ以降はどんな社会になるのか見守りたい気持ちなんです。」

《F/T的「リアル」とは》
相馬さん:「今の社会に対してフェスティバルがどう在るべきかというのは、大事な問題です。私が最もこだわりたいのは、『作る』フェスティバルであること。新しい作品を作る場となって、F/Tが広げたテーマの中でアーティストに競い合ってもらいたい。今回は『リアル』をキーワードとして、いろんな答えを考えられるようにしました。」
小崎さん:「僕は、F/Tでは時代性のある作品をやっていると思いますよ。current affairsというか。」
市村さん:「事実からそのままリアリティが得られるなら、演劇はいらないんですよね。事実を加工することによって現実以上のリアリティが生まれることを僕は信じたい。事実を並べたドキュメントでは描けない現実をも、加工の作品なら暴き出す力を持つことがある。」
相馬さん:「それを認める一方で、F/T春での『資本論』などドキュメント型の演劇を上演したのは、演劇の力を逆説的に証明したいという狙いがあります。フィクション・再現芸術とは違う、ドキュメンタリーのリアルを見せたかったんです。」

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《知の芸術、身体の芸術》
小崎さん:「演劇という虚構だからこそ持っている説得力。その一例として、先日の『フォト・ロマンス』は知的なゲームのようでした。こういう演劇って少ないのでは?」
相馬さん:「演劇の進化には2つの方向がありますよね。ひとつは舞台でしかできない、特権的な身体芸術。もうひとつは『フォト・ロマンス』のように身体ではなく表現するものややり方に特別な魅力があるもの。」
市村さん:「ラビア・ムルエの知的作業は素晴らしい。劇場に現実以上のリアルがないとしたら、それは『知』の敗北だと僕は思うんです。」
相馬さん:「日常に立脚した日常に近い作品ばかりが好まれがちですが、演劇ってそれだけじゃないですよね。ラビアさんの作品には人間が問うべき問題が凝縮されている。」
小崎さん:「知性による芸術作品は確かに面白いです。一方で身体性を極めたダンス作品の面白さもF/Tで味わうことが出来ますね。Grupo de RuaやBATIKの運動量には圧倒されました。」
相馬さん:「近年コンセプチュアル・ダンスが増えてきています。ただそこで、ダンスの自己批評性の限界を感じてもいます。」
市村さん:「ダンスの未来は厳しいですよ。身体の限界まで行って、体でなくコンセプトのダンスが流行し、そしてそれも限界が見えてきている。じゃあまた身体能力に頼る方向に行くかというと、それもなさそうだ。」
相馬さん:「そうですね。例えば『H3』におけるブラジル第三世界のような、自分のバックグラウンドに立脚した作品にはどんなコンセプトにも勝る貴さがあります。しかしそれだけではダンス表現の新しい展開が見えてきません。ちょっと話が変わりますが、私が新しい展開として注目しているのは『観客の身体性』なんです。Port Bの高山さんと今回『個室都市 東京』を作りました。体験した人の数だけ違う作品になる、観客の身体に依拠した作品です。」
市村さん:「僕の感想としては、『個室都市』の面白さって、演劇としての面白さというよりも、インタビューの回答の面白さに頼っていたんじゃないかな。」
相馬さん:「アンケートでの反響を見たところ、いつもの舞台芸術とは違うものを観客の皆さんに内在化できたのではないかという手ごたえを感じています。観客は答えを問われることがないという常識をひっくり返した。」

《議論の場を作ろう》
小崎さん:「僕は高山さんが毎晩やっていたトークを聞きに来ました。演劇の専門家ばかりでなくいろんな人が登場して面白かったですね。作品を見た後で意見を共有できる場が、もっと見たいと思いました。」
相馬さん:「今回あのような場を設けたことには意義を感じています。しかしながら、フェスティバルではなく批評家の人達にもっと自発的に意見交換してほしいという思いもあります。作品を見て、そこからどう文脈化するかという議論が日本には足りないですよね。」
市村さん:「ある時代までは論争があったんですよ。今は議論しようにも相手がいない。さびしいですね。」
小崎さん:「若い者に後を譲るなんて言いながら、市村さん辛口ですね〜(笑)。でも確かに現代は外に出て行かないような風潮がありますね。『ろじ式』で劇場に並べられていた骨格標本は、維新派の松本雄吉さんが写真家の杉本博司さんの作品からインスピレーションを得て、劇団に作らせたものだと聞きました。他分野からもどんどん着想を得るという貪欲さがさすがだなと思います。今の若い人は横の分野に食いついていかないんじゃないですか?」
相馬さん:「それは、私達世代の病と言えるかも知れません。現状維持で生きていくことが自然で、大望を抱かない。私と同年代の演出家の作品にもその傾向が見て取れますね。未来をどうしたいのか、答えがないような......。」
市村さん:「近代の歴史上、共産主義やファシズムなど世界がこうあるべきだという思想はことごとく戦争に繋がって行ってしまった苦い経験があるけど、でもそろそろ新しい大きな思潮が出てきてもいいような気がするね。」
相馬さん:「F/Tを新しい時代の方向性を考えていく場にできたらいいですね。私の望みは、同時代の批評家がいないのでそういう人に出会いたい。健全なフェスティバルとはフェスティバルの外に批評性を持つものだと思いますから、そんなフェスティバルを目指します。」
小崎さん:「なるほど。市村さん、父としてコメントはありますか?」
市村さん:「作るのが大変な、リスクの大きい演目が多くてヒヤヒヤしてますよ。冒険はもう少し抑えて頑張って。」
相馬さん:「そんな時こそ市村さんの出番じゃないですか(笑)。」

以上、レポートがかなり長くなってしまいましたが、ご覧の通り演劇のこれからについて示唆に富んだ熱いトークでした!どんどん進化するF/Tにどうぞご期待ください!

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