【クルーレポート】ディレクターズトーク シュテファニーカープ×相馬千秋×高山明

フェスティバル/トーキョー(以下F/T)のコンセプトや意義を探るディレクターズトーク第1回、であると同時に『個室都市 東京』のアーティストトークでもあるという、一度で二度美味しいトーク企画が11月19日にF/Tステーションにて行われました。
スピーカーはF/Tプログラム・ディレクター、相馬千秋と、『個室都市 東京』上演中のPort B演出家、高山明さん。ゲストには、オーストリアの演劇祭であるウィーン芸術週間の演劇部門ディレクター、シュテファニー・カープさんをお招きしました。
今回はその模様をレポートします。

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(写真。左から相馬さん、通訳の萩原健さん、シュテファニーさん、高山さん)

ウィーン芸術週間はF/Tの5倍以上の規模を誇る、伝統あるフェスティバルです。(言わばF/Tの大先輩!)ウィーンでも東京でも、都市の中でフェスティバルを作るということについて、プログラムを選ぶ立場であるディレクターには人知れぬ思いがあるようです。

《フェスティバルは発明の場》
まずは相馬さんからの質問。「どういうフェスティバルを目指していますか?」
「既存の劇場に無いものを作りたいと思っています」と、シュテファニーさんの答え。「理想は(ディレクターが)テーマまで設定して、そこから先はアーティストが自由に作れるようになるといいですね。発明の場とも言えるでしょう。」
決まった劇場、予算、期間という縛りの中で「発明」するのは大変なことで、それはウィーンも東京も同じ問題です。
「そんな中でもF/Tはおもしろい演劇形態の試みに挑戦している。その好例のひとつが『個室都市 東京』ですね。夜通し上演するなんてなかなかできないことです。」とシュテファニーさんから評価をいただきました。

《個室都市とウィーン》
『個室都市』は2011年にウィーン芸術週間での上演が予定されています。
その『個室都市』が形になるきっかけは実は、高山さんがシュテファニーさんと話したことでした。失業者や貧困層にインタビューするアイデアを高山さんが語ったところ、シュテファニーさんからビデオインスタレーションとして発表してはどうかと言われたそうです。それから高山さんと相馬さんとの対話を経て「個室ビデオ店」のアイデアが浮かび、この形になったとのこと。この2人が『個室都市』誕生の仕掛け人だったのですね!
シュテファニーさん:「ウィーンでの上演場所についていろいろ考えているところです。カールスプラッツ駅なんかどうかしら?地上は綺麗な場所でありながら、地下にはホームレスの人が住みクスリが売買されるという、矛盾をはらんだ場所なんです。」
高山さん:「地上と地下のギャップというのがおもしろい。この作品のコンセプトを理解していただけて嬉しいです。この池袋は逆なんですよね。地上はごちゃごちゃとした喧騒、地下はEchikaという整った商店街と通路があります。」

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《劇場とフェスティバルの役割》
特別な意味のある場所で上演するということを『個室都市』は端的に実現しています。それについてディレクターはどのような考えを持っているのでしょうか?
相馬さん:「都市という文脈の中で演劇を上演するというのは勇気のいることです。なぜならずっとそこに立ち、存在を守られている常設の劇場とは違うからです。」
F/Tもウィーン芸術週間も主催者は行政機関、そうなれば当然、市民を楽しませる目的でプログラムを選ぶ必要があります。ただ一方で、チケットを「売る」ために既に評判を得ているプログラムだけを紹介しては、実験的なおもしろさがなくなってしまいます。
相馬さん:「劇場では挑戦していないことに、先陣をきって挑戦することがフェスティバルの醍醐味だと私は考えています。その演劇作品や劇団がその後、劇場でもっと磨きをかけることに繋がればいいなと思います。」
シュテファニーさん:「私もフェスティバルには新しい演劇の形態を提案し、応援・促す役割があると考えています。」

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《フェスティバルの意義》
高山さん:「自分はフェスティバルを回るよりも、拠点を構えながら新しい試みをやりたいと思っています。それでもフェスティバルに参加するのは、チャレンジする機会を与えてくれる人と一緒に作品を作っていきたいからです。シュテファニーさんや相馬さんとコラボレートするのが楽しいから参加しているのです。」
相馬さん:「フェスティバルは演劇作品のマーケットでもあります。しかし私は演目を買ってきて並べるだけのフェスティバルにはあまり興味がなく、この都市ならではの作品を考えて紹介したい。その感動をお客さんと共有したいと思っています。」
シュテファニーさん:「高山さんの作品も含めて、F/Tには東京という町、今という時代だからこそ可能な演目が揃っていてとてもいいですね。」
相馬さん:「目標としている方にそう言っていただけて光栄です。来年F/Tで上演するクリストフ・マルターラーさんの作品で、ドラマトゥルク(※)としてシュテファニーさんとお仕事ができるのをとても楽しみにしています。」
(※ドラマトゥルク...演劇作品の創作をする演出家と、企画面やテキスト面などで協働で作品をつくる知的パートナーのこと。)

というわけで、ディレクターと演出家の考えに触れる、刺激的な2時間半の濃密トークでした!トークを聞いてくださった皆さん、レポートを読んでくださった皆さん、F/Tへの理解と興味が深まったでしょうか?F/Tを楽しむ助けになったなら幸いです。